家庭用超音波式加湿器が感染源と考えられたレジオネラ症の1例
(Vol. 29 p. 19-20: 2008年1月号)

1. はじめに
2007(平成19)年10月に市内医療機関から届出されたレジオネラ症について、患者から分離された菌と家庭用加湿器から分離された菌がパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による検索の結果、同一遺伝子パターンを示し、加湿器が感染源と考えられた事例を経験したので報告する。

2. 症例
患者は60歳の男性。既往歴に特記事項なし。酒の卸し業の臨時従業員。喫煙歴:1日2〜3箱×40年以上、飲酒歴:1日2〜3合(連日)。発症2週間以内の旅行歴や、プール、公共入浴施設などの利用は無かった。

現病歴(発生届の受理日をA日として記載):2007(平成19)年A−8日頃より37℃台の発熱、咳嗽があり、呼吸苦を自覚していたが、市販薬内服で様子をみていた。A−4日、高熱をきたし、近医を受診したところ、低酸素血症、胸部レントゲン写真で両肺野のスリガラス様陰影を指摘され、市内病院に救急車で搬送され入院した。

救急車中所見:血圧164/86mmHg、酸素8L/分投与下でSpO2 92%、体温40.4℃、脈拍129/分。

入院時血液検査所見:CRP 42.6mg/dl、WBC 22,600/μl、 RBC 492×104/μl、 Plt 14.2×104/μl、GOT 47IU/L、GPT 31IU/L、 LDH 449IU/L、 T-bil 1.39mg/dl、 BUN 15.3mg/dl、 Cre 1.0mg/dl、 BS 385mg/dl、 HbA1c 6.4%、 KL-6 429U/ml(基準値;500未満)。

入院後経過:入院日よりパズフロキサシン(静注用キノロン系抗菌薬),シベレスタットナトリウム(好中球エラスターゼ特異的阻害薬)などで治療が開始された。A−2日には挿管され、人工呼吸器管理となった。入院日に提出していたレジオネラ尿中抗原検査(EIA;酵素抗体法)は陽性の結果であり、A日に保健所へ発生届が提出された。胃管から、エリスロマイシン、リファンピシンの投与も開始されたが、血圧は徐々に低下し、A+1日に死亡した(死因:レジオネラ肺炎)。

3. 保健所の対応
発生届が提出された日に医療機関を訪問し、患者吸引痰を確保し、主治医と患者家族に聞き取り調査を行った。後日、患者宅浴場および患者が頻回に使用していた部屋で使用されていた加湿器のふきとり調査をおこなった。浴場からの検体ではレジオネラ属菌は検出されなかったが、患者吸引痰および加湿器からは分離培養検査でいずれもLegionella pneumophila SG1(血清型1群)が得られ、PFGE法で同一遺伝子パターンとの結果を得た(に本症例のPFGE像を示す)。これにより本事例は加湿器が感染源である可能性が高いと判断し、保健所は市広報紙に加湿器の使用に際しての注意事項とレジオネラ属菌への注意喚起を掲載し、当該加湿器については新潟市消費者センターから、NITE(独立行政法人・製品評価技術基盤機構)へ事例報告を行い、調査等を依頼した。報道へは、発生届のあった週の週報にレジオネラ症発生(患者死亡)につき公表してあったが、後日PFGE検査結果入手後に加湿器が感染源として考えられる旨について公表した。これを受け、新聞に加湿器の使用に関する注意喚起を促す記事が掲載された。

4. 考察
加湿器が原因と考えられるレジオネラ症の事例は、本邦では、2000(平成12)年1月に広島県の病院で2名の新生児のレジオネラ肺炎が起きた事例や、1996(平成8)年1月に東京都の病院で新生児3人が肺炎や気管支炎を起こし、新生児室の給湯設備の湯やミルクの加温器、加湿器からレジオネラ属菌が検出され、加湿器によって新生児室に菌が散布され集団感染となった可能性があるとみられている事例がある。

今回の症例は、加湿器から得られた菌と患者からの菌のPFGEでの遺伝子パターンが一致し、加湿器が感染源と推定された新潟市保健所で初めての事例である。

近年、気密性の高い住宅が増えており、室内の乾燥対策としての加湿器の使用や、また、インフルエンザなどの感染症予防策の一環としての加湿器の使用など、加湿器の需要は高まっているのではないかと思われる。一方、どのようなタイプの加湿器がレジオネラ症の原因となるのかについて、どのように注意すればよいのかについても含め、厚生労働省のレジオネラ防止指針やいくつかの保健所のホームページなどで既に掲示されてはいるものの、一般に商品を購入する際には、取り扱い説明書の他には製造業者や販売業者などからの説明はほとんど行われていないようであり、温泉や24時間風呂に比べ、一般住民には加湿器のリスクがあまり認知されていないように思われる。また、加湿器は一般家庭のみならず、抵抗力が比較的低い者が居住する施設等でも使用されている可能性が高い。このようなレジオネラ症の重症化因子を有する者が利用している施設等へも、情報提供が必要と考えられる。

5. 最後に
患者の吸引痰から検出された菌と加湿器からの菌のPFGEでの遺伝子パターンが一致し、加湿器が感染源と推定されたレジオネラ肺炎の事例につき報告した。今回の事例を機に、加熱をしないタイプの超音波式加湿器ではレジオネラ症のリスクがあることを改めて認識し、加湿器の選択や、その使用にあたっての注意事項を一般住民や使用施設へ繰り返し啓発することが必要であると考えられた。

新潟市保健所
山崎 哲 松田哲明 山田耕嗣 石沢幸子 山田 豊 竹内 裕
新潟市衛生環境研究所 江口ヒサ子 棚橋定衛

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