スッポンが原因と考えられるサルモネラ食中毒事例−川越市
(Vol.29 p 20-22:2008年1月号)

はじめに:2007年9月、川越市内の飲食店において、スッポン料理が原因と考えられるサルモネラ食中毒事件が発生した。患者便と、参考品のスッポン、およびふきとり検体からSalmonella Typhimuriumが検出され、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンが一致した事例を経験したので報告する。

探知:9月27日、川越市と隣接するふじみ野市の医師から、「23日夜から、下痢、発熱等の症状を呈する患者(4歳、男)を診察した。」との連絡が、埼玉県所沢保健所にあり、県が調査を開始した。調査の結果、患者は、家族ら8人(Aグループ)で、川越市内のS飲食店(スッポン専門店)を9月22日夜に利用しており、同日に同店を利用した他3グループのうち、1グループ(Bグループ)にも同様の患者がいることが判明した(表1)。

発生状況:喫食4グループの14人(男性6人、女性8人:4〜60歳)のうち、患者は2グループの8人であった。症状は下痢、腹痛、嘔吐、発熱等で、潜伏時間は12時間〜60時間であった。検便の結果、Aグループの3人、Bグループの1人の、合計2グループ4人からS . Typhimuriumが検出された(表1)。

喫食調査の結果:AグループとBグループの共通食は、22日のS飲食店でのスッポン料理で、患者はスッポンなべ、スッポンの生血を喫食していた。なお、Aグループで唯一発症しなかった女児(6歳)は生血を飲んでいなかった。

原因調査および検査結果:食材である22日の提供食は保存されていなかった。参考品として、S飲食店で保有していた生きたスッポン1匹を通常どおり調理し、可食部(主に肉)1検体および生血1検体を、またふきとり検体として、まな板、包丁、蛇口、スッポン保存容器、スッポン甲羅など12検体、従事者便3検体について検査を実施した。

サルモネラの検査については、BPWとRV培地にて二次増菌培養を行い、MLCB寒天培地で分離した。その結果、スッポン可食部、生血、スッポン保存容器、スッポン甲羅の合計4検体から、S . Typhimuriumが検出された。

スッポン可食部の菌量は、MPN法により>5,500/100g、平板塗抹法では800cfu/gであった。なお、生血の定量検査は検体量不足のためできなかった。

S飲食店で提供しているスッポンは九州の養鼈場から仕入れている。ここでは産卵から飼育までを一貫して行っている。S飲食店では5〜8匹のスッポンを常備し、2週間以内に客に提供していた。なお、この間、餌は与えていない。スッポンの調理方法は、毎回来客時にスッポンを水で洗い、包丁で首を切り生血を採取(約20〜30ml)し、肉、甲羅、内臓等に分割して鍋の具材とする。生血は1人あたり3〜4mlをオレンジジュースで割って客に提供し、作り置きはしていない。また、すぐに飲まない客に対しては早く飲むように注意しているとのことである。肉などの可食部は、スッポン鍋用として予め厨房内で2時間くらい煮込んだ後に提供するため、生血として提供するスッポンと、鍋用に提供するスッポンとは異なる個体である。

当保健所で食材およびふきとり検体から分離した4株と、医療機関および県衛生研究所で患者から分離した4株の合計8株について、薬剤感受性試験およびPFGEによる遺伝子解析を実施した。その結果、供試した8株は、薬剤感受性試験で12薬剤(クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、カナマイシン、アミノベンジルペニシリン、ナリジクス酸、セフォタキシム、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、ホスホマイシン、ノルフロキサシン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)に感受性を示した。また、制限酵素Bln Iを用いたPFGE解析でもパターンが一致した(図1)。

まとめ:疫学調査および細菌検査の結果、(1)患者の共通食はS飲食店によるスッポン料理であること、(2)患者便、スッポン(参考品)の可食部および生血、ふきとり検体のスッポンの保存容器および甲羅から、S . Typhimuriumが検出され、これらの分離株がすべて同一のPFGEパターンを示したことから、本事例はS飲食店を原因施設とする、S . Typhimuriumによる食中毒と判断した。

サルモネラによる食中毒は、健康な成人ではその症状が胃腸炎にとどまるが、小児や高齢者では重篤となる傾向がある。本事例においても、患者のうち幼児と高齢者の2人は症状が重く入院した。スッポンはこれまでにも、サルモネラ食中毒の原因や、コレラ毒素産生性のナグビブリオが検出されている。スッポン料理を生で喫食することについては、飲食店営業者および消費者に対し、今後とも強く注意喚起の周知を図る必要がある。

川越市保健所衛生検査課
福島浩一 奥野純子 藤原由紀子 細田豊子
埼玉県衛生研究所
食品媒介感染症担当 臨床微生物担当

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