The Topic of This Month Vol.28 No.12(No.334)

急性脳炎 2004〜2007.8

(Vol. 28 p. 339-340: 2007年12月号)

新興感染症、バイオテロ関連疾患を含む不明疾患の早期把握の必要性から、2003年11月の感染症法改正で、急性脳炎は、基幹定点報告から、5類感染症の全数把握疾患に変更され、診断したすべての医師は、診断から7日以内に届出ることが義務づけられている。2007年4月の法改正後、急性脳炎としての届出の対象は、4類感染症として全数把握されるウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎およびリフトバレー熱を除く、それ以外の病原体によるもの、および病原体不明のものである。また、炎症所見が明らかでなくとも、同様の症状を呈する脳症も含まれる(熱性痙攣、代謝疾患、脳血管障害、脳腫瘍、外傷など、明らかに感染性とは異なるものは除外する)。当初、インフルエンザ脳症や麻疹脳炎など、原疾患が届出対象である場合は除くと解釈されていたが、厚生科学審議会感染症分科会の審議を経て、2004年3月以降はこれらも届出の対象となった。これによってわが国でその存在に気づかれたインフルエンザ脳症(IASR 16: 269-270, 1995 & 17: 268-269, 1996)の発生動向も把握することができるようになった。急性脳炎についてサーベイランスを強化した国は稀であり、世界に先駆けての届出システムといえる(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-03.html参照)。

患者発生状況:急性脳炎の届出は、2004年166例、2005年188例、2006年167例、2007年(第1〜35週)169例(2007年10月4日現在報告数)、計690例であった。発症月別では(図1)、急性脳症の届出開始間もない2004年前半は報告数が少なかったが、2005〜2007年はいずれも冬季のインフルエンザ脳症報告数の増加により1〜3月に大きなピークを示している。2007年は2005〜2006年に比較して4〜8月の報告が多い。一方、2004年9〜11月には後述のスギヒラタケとの関連が考えられた急性脳症が増加した(本号8ページ)。

性別年齢分布:2004〜2007年に報告された690例は、男370例、女320例で、各年とも低年齢の乳幼児が多く(図2)、0〜9歳が半数(344例)を占め、1歳(78例)、0歳(53例)、2歳(48例)の順に多かった。2004年には50〜80代に集積がみられ、50歳以上の過半数はスギヒラタケ関連症例であった。2004年より少ないが2005年も50、60代にピークがみられた。

都道府県別発生状況図3):2004年は秋田県26例、新潟県17例、山形県14例と、スギヒラタケ関連症例が発生した県の報告数が多かったが、2005年は大阪府22例、東京都16例、福岡県16例、千葉県13例、秋田県12例、山形県12例、2006年は千葉県19例、大阪府19例、広島県12例、2007年は大阪府22例、東京都16例、宮崎県16例、千葉県14例と、大都市に多い傾向がみられた。宮崎県では2007年にインフルエンザ脳症の報告が行われるようになり、その数が目立つようになった。一方、徳島県はこれまでに1例の報告もない。

病原体別発生状況:原因と推定された病原体の報告をみると(図4)、0〜14歳の381例中病原体不明が155例で、インフルエンザ142例(37%)、HHV-6 19例、ロタ11例、単純ヘルペス(HSV)8例、アデノ6例、コクサッキー6例など、ウイルスが多かった。細菌は11例で、サルモネラ、マイコプラズマ各4例、腸球菌、ウシ型溶血性レンサ球菌(Streptococcus bovis)、肺炎球菌+レジオネラ各1例であった。

15歳以上の309例中、病原体不明が221例と72%を占め、ウイルスはHSVなどヘルペス群が40例、インフルエンザ14例などが多かった。細菌は15例中10例が肺炎球菌で、ペニシリン耐性あるいは低感受性の記載があるものもあった。次いで結核菌3例、マイコプラズマ1例であった。

麻疹脳炎は2004年1例、2006年1例、2007年8例で、2007年の10代後半〜20代を中心とした麻疹流行の影響を受けていた(IASR 28: 239-240, 2007)。

死亡例について:死亡の報告は78例(2004年29例、2005年27例、2006年14例、2007年8例)で、2004〜2007年報告総数の11%であった。このうち、0〜14歳の40例は男13例、女27例で、0〜4歳26例、5〜9歳9例、10〜14歳5例であり、病原体はインフルエンザウイルス16例(うち、A型8例、B型6例、型不明2例)、ロタウイルス、RSウイルス各2例、アデノウイルス3型、アデノウイルス42型、A群コクサッキーウイルス(CA)6型、CA7型、HSV、Salmonella Enteritidis、S. bovis 各1例、不明13例であった。15歳以上の38例は男20例、女18例で、15〜19歳1例、20代3例、30代2例、40代3例、50代6例、60代9例、70代10例、80代4例であり、病原体はインフルエンザウイルス4例(A型1例、B型1例、型不明2例)、麻疹ウイルス、HSV、ムンプスウイルス各1例、不明が31例であった。死亡の報告は、届出以降に追加報告されたものも含まれてはいるが、ほとんどが届出時点のものであり、実際にはさらに多いと推測される。合併症の有無や程度は、届出情報からは把握ができない。

インフルエンザ脳症:インフルエンザに伴う急性脳症は、厚生科学研究インフルエンザ脳症研究班(班長:森島恒雄)によれば年間100〜 300例が発生していると推測されている。感染症発生動向調査では2004/05シーズン53例(A型19例、B型29例、A+B 3例、不明2例)、2005/06シーズン53例(A型48例、B型4例、A+ロタ1例)、2006/07シーズン42例(A型30例、B型7例、不明5例)の報告があり、各シーズンの流行型を反映していた。

まとめ:急性脳炎・脳症は、死亡や後遺症が残ることもある重篤な疾患であり、届出の義務があることを、一層周知徹底する必要がある。不明重篤疾患の把握にも有用であり、症例の集積を迅速に捉えるため、病原体検索中の段階で臨床診断による迅速な届出が重要である。一方で、病原体の特定は早期診断・治療や、拡大予防策、予防接種などを考える上で非常に重要である。そのため、可能な限り病原体検索を実施して、届出後であっても病原体を追加報告することが求められている。集団発生や地域的流行など、公衆衛生上重要と判断される場合は、医療機関と行政機関の協力によって、より積極的な病原体検索を実施することが望まれる。本症の病原体検索は基本的には医療機関における臨床検査として行われるが、多くの地研で検査を実施しており(本号4ページ)、また国立感染症研究所においても病原体検索に積極的な協力を行っている(本号3ページ6ページ7ページ12ページ)。

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