中国への研修旅行帰国後、細菌性赤痢感染が判明した学生グループの事例―新潟市

(Vol. 28 p. 326-327: 2007年11月号)

1. はじめに
新潟市内の大学における中国の上海・蘇州へのグループ研修旅行帰国後、参加者の一部が細菌性赤痢に感染していたことが判明した事例を経験し、注目すべき点が幾つかあったので報告する。

2. 赤痢同定までの経過
2007(平成19)年8月、市内の大学生24名が引率教官1名と4泊5日の中国(上海・蘇州)研修旅行へ出かけ、旅行中、数名が下痢症状をきたし、教官が内服薬を与え、症状軽快後、帰国した(以後、帰国日をA日とする)。A+3日、学生1名が、下痢、嘔吐で医療機関を受診した。医師から情報提供をうけた保健所は、受診した学生と引率教官に連絡し、有症状者の医療機関受診や保健所での便検査を勧奨した。A+5日、1名の学生が保健所で検便を受け、A+7日、細菌性赤痢(Shigella sonnei )と判明した。なお、この学生は帰国後下痢症状があったが、自然軽快したため医療機関は受診していなかった。

3.患者同定後の保健所の対応と経過
保健所は全参加者の調査および検便を行った。県へも情報提供を行い、市外在住者については当該地域を管轄する保健所に調査および検便を依頼した。調査の結果、旅行中もしくは帰国後に、ほとんどの学生が下痢などの症状があり、数名は既に抗菌薬内服などの治療を受けていたことが判明した。また、多くの学生が帰国後アルバイトや他の集団活動を行っていた。保健所は、旅行参加者とその帰国後濃厚接触者、アルバイト先の従業員(食品関係)などに検便を行い、帰国後A+1日より1週間ほど下痢症状が続いていた旅行参加者1名から赤痢菌(S. sonnei )が新たに検出された。最終的には、旅行参加者24名と帰国後の接触者73名の検便、周辺の健康確認を行ったが、それ以上の患者発生はなかった。

4.本事例の注目すべき点
今回の事例を通じ、以下の点で注意や改善が必要と考えられた。
(1) 研修参加者が、帰国時に下痢症状があった旨の検疫申告を行わなかったこと。
(2) 各学生が症状を自覚していたにもかかわらず、感染拡大についての意識が低く、 食品関係等のアルバイトを続けたこと。

これらについては大学へ今後の指導徹底をお願いしたが、(1) については、空港において健康検疫申告の必要性が旅行者に十分伝わっておらず、また、自己申告制のため申告が行いにくい状況になっている可能性があることも原因と考えられる。また、下痢症状の申告があったとしても、検疫では今般の検疫法改正により下痢症患者に対する検便検査の法的根拠が無くなり、速やかに検便が行えなくなっている。従って、医療機関や検査機関を受診するまでの間、二次感染の機会が増大することが懸念される。今後は検疫所と医療機関および地域自治体との連携などにより、できるだけ速やかな検便体制を構築する必要がある。(2) については、アルバイト先の従業員管理の問題もある。アルバイトの従業員まで管理が行き届かず、動向(海外旅行)把握と体調の確認をしていないか、報告をうけても現場の感染症に対する意識が低く、就業時に症状が無ければそのまま仕事を続けさせていた業者もあった。

なお、大学は夏季休暇中にもかかわらず情報入手後速やかに保健所と連携をとって本事例に対応し、保護者説明会や公表(記者会見)を行った。大学の公表を受け、地元新聞には海外旅行帰国時の検疫申請に対する注意喚起を促す記事が掲載された。

5.最後に
今回の事例では、幸い二次感染は起きなかったが、広域感染に発展するリスクは十分あったと考えられる。近年、修学旅行や海外研修など、学校行事として学生が海外へ出かける機会は増加しており、輸入感染症対策について、海外での生活、症状が出た場合の対応、帰国時の検疫申告などについて、学校における指導の徹底をお願いしたい。また、飲食店や食品を扱う業者、介護関係の施設などに対しては、今回のような状況があることについてあらためて注意を促したい。

今後は学生だけではなく、海外研修を行う企業や一般旅行者なども対象に、より広く啓発を行い、社会全体として輸入感染症のリスクの認識を向上させるとともに、検疫所や医療機関と具体的に連携体制の強化を図るなど、感染拡大の防止に努める体制が構築されるよう、行政としても取り組む必要があると考えられた。

新潟市保健所 山崎 哲 石沢幸子 竹内 裕
新潟市衛生環境研究所 江口ヒサ子 棚橋定衛

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