麻疹に中枢神経症状を合併した成人症例

(Vol.28 p 297-297:2007年10月号)

東京都江東区において発症した成人麻疹感染に伴い、髄膜脳炎、ミエロパチー、末梢神経障害を合併した症例を報告する。

症例:生来健康な28歳男性。
既往歴:幼少期に麻疹ワクチン接種歴あり(母親から聴取)。
現病歴:当院来院11日前より咽頭痛、発熱あり近医受診。溶連菌感染を疑われ抗菌薬治療を受けた。来院9日前より顔面を中心に小丘性紅斑、来院5日前より40℃台の発熱と全身への紅斑の広がりを認め、入院治療なるもその後、意識状態は次第に悪化、来院1日前より人工呼吸管理となり、翌日、当院救命救急センターへ転送となった。

来院時所見:意識状態はJapan coma scale (JCS)II-30、Glasgow coma scale(GCS) E2VTM1 。心拍数102/分整、血圧142/78mmHg、呼吸数14/ 分、SpO2 100%(CPAP/PS FiO2 80%での人工呼吸管理下にて)、BT 36.7℃。WBC 11.8×103/μl、CRP 1.92mg/dl。髄液検査では細胞数 605/3、単核球 583/3、多核球22/3、蛋白量 153mg/dl、糖 54mg/dl。

項部硬直は認めず、口腔粘膜にコプリック斑、上肢優位に褐色の色素沈着を呈する癒合傾向のある小丘性紅斑を全身に認めた。

入院後経過:意識障害、髄液検査にて細胞数の増加、血清麻疹IgM (EIA)12.41と上昇を認めたため、麻疹髄膜脳炎と診断し、メチルプレドニゾロンパルス療法施行した。第4病日にはGCS E4VTM6まで意識状態の改善を認めるも、第5胸椎以下での感覚鈍麻を認め、バビンスキー反射陽性である等、両側錐体路徴候が認められたため、脊椎MRI検査施行したところ、T2WI高信号病変を脊髄内に認め、ミエロパチーの合併と考えられた。

また、弛緩性運動麻痺、深部腱反射の消失を認め、電気生理学的検査施行し末梢神経障害、特に多発性神経根ニューロパチーの合併と診断した。末梢神経障害は末梢神経伝導検査上、ギランバレー症候群に類するものであり、免疫グロブリン静注療法を施行したところ、緩徐に上肢、下肢の順に神経症状の改善を認めた。なお、後日抗ガングリオシド抗体は陰性と判明した。

図1経過表のごとく治療を行い、急性期を脱した後はリハビリテーションを開始した。その後も次第に神経症状は改善し、筋力は下肢に一部障害を認めるものの上肢はMMT5までの回復、感覚鈍麻も第6胸椎以下に軽度認めるのみとなったため、第65病日、引き続きのリハビリテーション目的にて転院となった(ADLとしては自力で何とかベッドから車椅子へ移乗できる状態であった)。

考察:麻疹は発熱・結膜炎・特徴的な発疹とコプリック斑を呈する感染症であるが、0.1〜0.2%に中枢神経合併症(うち9割が脳炎)を呈し、後遺症も重篤であることが少なくないといわれている。

本症例は幼少期に麻疹ワクチン接種歴のある成人において生じた初発の麻疹であり、麻疹髄膜脳炎、ミエロパチー、ギランバレー症候群に類する末梢神経障害を合併したものと考えられる。

麻疹脳炎の予防にはワクチン接種により麻疹罹患を防ぐことが最も重要であり、ワクチン未接種、primary vaccine failure、secondary vaccine failureによる学童、青年期の発症には注意が必要である。

東京都立墨東病院・救命救急センター 日尾野 誠 田邉孝大 明石暁子 濱邊祐一
・内科 町田 明 鎌田智幸

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