市販のノロウイルス検査キットの特徴

(Vol.28 p 291-292:2007年10月号)

ノロウイルス(NV)感染症は人→人感染、食品媒介感染などいずれの場合においても、初期の迅速な診断、対応が求められ、これが感染拡大防止に極めて重要である。近年、NV感染とヒトの血液型抗原(histo-blood group antigen)との関係が検討され、遺伝子型群により細胞へ付着しやすい血液型抗原があること、NVがカキの腸管上皮細胞に存在するヒトA型血液型抗原類似の抗原に付着することが報告されている。しかしながら、NV培養系の確立までには至っておらず、通常、NVの検出はRT-PCR法により行われる。最近では、NVの簡易、迅速検出を目的として、種々の検査キットが開発され市販されている。現在わが国で市販されているNV検出キットには次の5種類がある。A社:ELISA法、B社:前処理に特徴を持つRT-PCR法、C社:NASBA法、D社:RT-LAMP法およびE社:TRC法である。A社:ELISA法以外は遺伝子を増幅・検出する方法である。これらのキットはすべて糞便からのNV抗原あるいは遺伝子の検出用に開発されたもので、それぞれの市販キットはそれぞれの特徴を有している()。

A社:ELISA法はGenogroup IおよびII(GI、GII)を広範囲に認識するモノクローナル抗体および免疫血清を用いたウイルス抗原(蛋白)測定法である。唯一体外診断薬として厚生労働省より認可されている。操作時間は約2時間で、いちどに90検体以上の同時測定が可能である。特異性は高く経済的であるが、その特性から感度が低く、GIとGIIを識別できない。

B社:RT-PCR法は特殊な「糞便処理液」によるRNaseの失活とRNAの抽出を行い、「Ampdirect」反応液により酵素反応阻害物質の働きを抑えながら、RT-PCR法により遺伝子の増幅を行う。糞便検体からのRNA抽出操作が不要で、直接NV遺伝子を増幅することが可能である。操作時間は約3時間で、検体処理から遺伝子増幅までone tubeで行えるが、電気泳動あるいは融解温度解析による検出が必要である。偽陰性対策として、内部コントロールDNAが含まれている。GIとGIIの識別は可能で、遺伝子解析は行えるが、増幅産物が100bp以下と短い。

C社:NASBA法はRNAを直接増幅するNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)と核酸クロマトグラフィーを組み合わせた試薬である。41℃の一定温度でRNAを増幅するため特別な機器が不要で、RNA抽出操作を除き約2時間で目視判定が可能であるが、酵素添加などはブロックヒーター上での操作が必要である。NVの検出のみに目的を置いているので、遺伝子解析ができないが、GIとGIIの識別が可能である。

D社:RT-LAMP(Reverse Transcription-Loop Mediated Isothermal Amplification)法は標的遺伝子の6領域に対して4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して63℃の一定温度で逆転写反応とDNA増幅反応を1ステップで行う。反応中に生成されるピロリン酸マグネシウムをリアルタイム濁度測定装置で測定する。RNA抽出操作を除き約1時間以内で検出ができるが、エンドポイントでの目視判定(白濁)も可能である。NASBA法と同様、NVの検出のみに目的を置いているので、遺伝子解析ができないが、GIとGIIの識別が可能である。

E社:TRC (Transcription Reverse-Transcription Concerted)法はNASBA法と同様の増幅原理によりRNAを直接増幅する。インターカレータ性蛍光色素を結合したINAFプローブを用いてリアルタイムに蛍光を測定する。酵素試薬の添加は測定装置上で行い、43℃の一定温度でRNA を増幅する。約1時間以内で判定が可能であるが、リアルタイム蛍光測定装置が必要である。2種類のキットが販売されているが、GIとGIIを明確に識別することができない。

ここでは、無作為に選択した糞便40検体を用いて、A社からD社の4種類のキットについてRT-PCR法との比較検討を行った。それぞれのキットのRT-PCR法との一致率は60%(24/40)、95%(38/40)、90%(36/40)、90%(36/40)であった。また、感度は52%(17/33)、97%(32/33)、91%(30/33)、94%(31/33)、特異性は 100%(7/7)、86%(6/7)、86%(6/7)、71%(5/7)であった。

以上のように、これら4種類のキットはそれぞれに特徴があるので、食中毒などの集団感染 発生時には施設の規模に準じて、それぞれの長所および短所を考慮した対応が可能である。

広島県立総合技術研究所保健環境センター 福田伸治
堺市衛生研究所 三好龍也 内野清子 中村 武 吉田永祥 田中智之

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