大阪府における2006/07シーズンの胃腸炎集団発生状況

(Vol.28 p 283-285:2007年10月号)

大阪府では各保健所へ届けられた食中毒を除く人→人感染による集団胃腸炎は感染症グループに報告され、10人以上の患者発生および病原体が特定できた事例がとりまとめられている。それによると、2006年10月〜2007年3月(2006/07シーズン)に発生した集団胃腸炎は323事例(患者数11,607人)であった。前年度は79事例(2,560人)であり、11月には10倍の発生数となるなど、これまでにないノロウイルスの流行となった。発生施設は高齢者施設を含む社会福祉施設での発生が53%、医療機関が27%と、全体の80%を占め、これら施設への蔓延が認められた(図1)。また、規模の大きい厚生福祉施設および病院では、他棟への持ち込みや感染の拡大によって集団発生が数回にわたって発生していた。保育所・幼稚園は発生割合では15%にとどまってはいるものの、2005/06シーズンに比べて発生事例数は増加していたが、これだけの流行状況でありながら、小・中学校では減少に転じた。

2006/07シーズンの患者数10人以上の集団胃腸炎事例で当所にて検査を実施したのは227事例あったが、222事例(98%)からノロウイルスを検出した。残る5事例のうち1事例はサポウイルスを検出し、原因不明は4事例のみであった。およそ7割の事例が当所にて検査を実施され、その他は民間の検査会社あるいは医療機関の検査室でノロウイルスの検査が実施された。また、同期間における食中毒は25事例(2,472人)であった(表1)。これらの月別発生状況によると、発生件数は11月に入り急速に増加していた。食中毒では、感染した調理人による二次汚染が原因とされる事例が目立ち[25事例中19事例(76%)で従業員から検出され、4事例は陰性、2事例は検査されなかった]、12月には弁当を原因とする大規模な発生があり、患者数が急増した。流行期にカキを原因とした食中毒はなかった。なお、大阪府全域での食中毒発生状況は60事例、2,966人と報告されており(大阪府食の安全推進課)、2005年にくらべ年間患者数は約6.5倍となった。

本流行の原因となったノロウイルスの特徴を解析するため、2006/07シーズン発生事例222事例について型別を実施した。検出にはRT-PCR法(G1F1': 5'-ctgcccgaattygtaaatgat-3', G1R1: 5'-ccaacccarccattrtacattt-3'およびG2F1: 5'-gtgggagggcgatcgcaatct-3', G2R1: 5'-tgcataaccattrtacattct-3')を用い、増幅領域の遺伝子配列の決定後、代表株1), 2)との相同性を基準とした型別を行った。その結果、2006/07シーズンにおける流行株はGII/4 に分類され(図2)、214事例で検出された(96%)。GII/4以外ではGI/4とGI/8がそれぞれ2事例、GII/7が1事例、GII/13が3事例であった。その他にはGII/4 とともにサポウイルス、GI/7、GI/8、GI/14そしてGII/2が検出される混合パターンであった。GII/4 が優勢に検出された傾向は施設に関係なく、また小児散発例、食中毒においても同様であった。3月に入るとGII/4以外の型が検出される傾向を示した。前年度は学童を中心に流行がみられ、流行の主要遺伝子型はGII/2、GII/3またはGII/6であった。

高齢者を中心とした福祉施設および医療機関において感染の拡大を阻止できていない事例、1年間に2度、3度と発生を出してしまう施設に対しては日頃の健康管理から早めに胃腸炎症状に気付き、ノロウイルスに対する衛生管理を行うことが重要である。また、高齢者施設における給食委託業者による食中毒もあり、初期対応が困難な事例も発生した。

ノロウイルスには30種類以上の血清型が存在するとされているが、本流行の要因の1つとしてGII/4が広まったことが考えられる。GII/4は世界的にも2002年、2004年に集団発生急増の原因となった遺伝子型である。大阪府内においても2004年度の流行はGII/4であった(図2)。しかし、本年度のような大流行には至っておらず、感染効率、増殖性などに関わる変異が関与しているのではないかと考えられる。今後、再発生施設における検出株の比較、2006/07シーズン検出株の特徴について解析を行う予定である。来たるシーズンにおけるGII/4の発生にも注目したい。

 参考文献
1)Kageyama T, et al ., J Clin Microbiol 42(7): 2988-2995, 2004
2)Okada M, et al., J Clin Microbiol 43(9): 4391-4401, 2005

大阪府立公衆衛生研究所感染症部
左近直美 山崎謙治 依田知子 井上 清 加瀬哲男 高橋和郎

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