麻疹の再罹患と考えられた1例

(Vol.28 p 258-258:2007年9月号)

麻疹ワクチン接種後の麻疹の罹患は修飾麻疹として知られているが、一般に、麻疹に罹患した後の再罹患はないと考えられている。しかし、麻疹の罹患後にも麻疹ウイルスの感染が起こり、発症しなくても抗体価の上昇を来すことは知られている。今回、我々は麻疹の再罹患と考えられる1例を経験したので報告する。

症例は60歳男性で職業は医師、母親の弁では3カ月の時に麻疹に罹患している。麻疹ワクチンの接種歴はなし。2007年5月4日、寝汗に気づき、38℃の発熱がみられた。5日の昼より熱感があり、体温は測定しなかったが、38℃程度あったと思われた。4〜5日にはファロペネム 600mg/日を服用した。6日の朝、顔面、耳の後部に紅斑性発疹が出現し、その後は全身に拡大した。7日早朝にも熱感があり。37.5℃程度と思われた。この頃より発疹は癒合を示した。8日には平熱となった。発疹は通常の麻疹に比べて軽度であり、出現してから7日後には完全に消失した。結局、数日間自宅療養を行ったが、10日に受診したときの採血結果では、EIA法にて麻疹IgM抗体9.09 (+)(基準値< 0.8)、IgG抗体≧128 (+)(基準値<2.0)であった。発病約3カ月後に当たる8月3日の採血では、麻疹IgM抗体1.54 (+)、IgG 抗体122 (+)であった。

本症例では典型的な麻疹と異なり、発熱、発疹が軽度であったが、IgM抗体価およびその変動からみて麻疹と考えられた。生後3カ月における麻疹の既往歴は間違いである可能性もあるが、本症例では既に発病6日後のIgG抗体価が高値であり、発病前に麻疹に対する不十分な抗体を有していて再罹患した可能性が高い。発病前の保存血清があれば、再罹患であることを示すより確実な証拠が得られたと思われるが、保存血清は得られなかった。

麻疹に自然罹患することで生ずる免疫は強固なものであり、一生涯続くと考えられている。しかし、罹患後に麻疹ウイルスに曝露されないと、防御免疫は消退していくことも考えられる。また、本症例のように生後間もなく麻疹に罹患した場合には、母親からの移行抗体の影響で不完全な感染となり、通常のように強固な免疫を生じない可能性がある。本症例では臨床像が非典型的であり、通常では麻疹の診断がなされなかった可能性があるが、このように非流行期でも麻疹と認識されずに、麻疹ウイルスが人から人へと感染循環していることも考えられる。今後、今回のような症例を集積・解析することで、麻疹ウイルスの伝播様式の詳細が解明されることが期待される。

(財)結核予防会新山手病院内科 木村幹男
    同 麻酔科/東洋医学科 千坂正毅

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