大学生の麻疹:母子手帳を活用した対策

(Vol.28 p 250-250:2007年9月号)

2007年4〜6月に東京圏の大学生の間で麻疹が流行し、全学休講にする大学が多数あった。麻疹に罹患して重症になり危険なのは、幼少期にワクチン未接種かつ麻疹未罹患であった学生である。したがって、流行期間中の対策としては、これらハイリスクの学生に焦点を絞るべきである。未接種・未罹患であるかどうかを調べるのには、母子手帳が利用できる。

大妻女子大学(短大を含む)では、全学生に対して次のことを要請した:1)母子手帳を調べて未接種・未罹患であった者は人込みを避け、すぐにワクチン接種を受ける、2)罹患した学生は自宅待機(入院)し、そのことを大学健康センターに届け出る。5月21日に約8千人の学生にこのメールを配信し、学内掲示およびクラス担任からも同じ指示を出した。

同時に、ハイリスク者の割合を調べた。2つの学寮の寄宿生480人に実家と連絡を取らせて調べた結果を集計したところ、13人(2.7%)が未接種・未罹患者であることが判明した。この値を全学生に当てはめると、200人程度がハイリスク者であると推測された。

7月末までに、大学健康センターに8例(医師の診断済み)の届け出があった。うち3例()が未接種・未罹患で、その1人が入院した。残り5例はワクチン接種歴があり、症状は軽く入院した学生はいなかった。

このような患者発生状況であったので、当大学では休講を実施しなかった。新聞報道を読むと、休講にした大学は男女共学のところが多く、女子大は極めて少なかった。罹患率、症状の程度に男女間で差があったかどうかは興味深いところであるが、他大学のデータの公表を待ちたい。

全学生のうちどの程度が母子手帳を見て、何人がワクチン接種を受けたかは、調査をしていないのでわからない。しかし、当大学では昨年度から新入生を対象に「女性と健康」という全15回の授業を行っており、そのうちの一つ「妊娠・出産」の講義では、母子手帳を母親と一緒に見て、感想文を書かせることを課題にしている。すでに数百人の学生がこの授業を受けているが、彼らが自分のワクチン接種歴・麻疹罹患歴を調べるのは簡単なことだった。

母子手帳には、子供の健康に関し出生前から6歳ごろまでのことが記録されている。ワクチン接種の記録があるのは当然であるが、未接種者が麻疹ウイルス野生株の感染を受ければ顕性感染となり典型的な症状が出るので、母親はわが子の麻疹罹患のことを書くのが普通である。したがって、母子手帳をチェックすることは、上記ハイリスク者をスクリーニングするのに有効で、かつ費用がかからない方法といえる。

ところで、上述の寮生13人は麻疹ワクチン接種を希望したが、受けられたのは3人だけであった。他は、ワクチン不足の医療機関で「幼児、老人にワクチンを残しておくので、元気な大学生は遠慮して欲しい」などと断られたそうである。麻疹流行時に優先すべきは、ハイリスクの青年である。

来年度からは、4月授業の開始時に学生全員に母子手帳を調べさせ、ハイリスク者には流行期前に麻疹ワクチン(望ましくは麻疹・風疹2種混合ワクチン)の接種を薦める予定である。これによって、大学での重症な麻疹患者の発生を予防できるだろう。

大妻女子大学公衆衛生研究室 井上 栄
同大学健康センター 明渡陽子 新堀多賀子 手嶋洋子 小林洋子

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