創価大学における麻疹対応

(Vol.28 p 247-249:2007年9月号)

2007年4月、本学において麻疹が流行し、対応として全学休講、ワクチンの緊急集団接種を行った。これらの経緯について報告する。

2007年4月16日、本学保健センターでは、寮生(本学の場合、寮生は基本的に1年生のみで、2年生以上は一部残る)を中心として10数名の麻疹患者の発生を確認したため、八王子市保健所に報告した。同日午後、保健センターの医師、看護師と、保健所の医師、保健師により、各学寮の巡視を行い、患者および発熱者の隔離状況を確認、指導した。また、保健所の指導に基づき、全学生に麻疹流行の緊急注意を配信し、37.5℃以上ある人は外出を控え、麻疹流行の告知をした上での病院受診を徹底した。

翌17日も患者数の増加を認めたため、保健所の指導を仰いだところ、発症者の大多数を占める1年生を、ゴールデンウィークまで休講措置してはどうかとの助言をいただいた。これを受け、学内の麻疹対策委員会で検討したが、大学では受講者が複数学年にまたがっている講義が多い点を考慮し、大学としては異例であったが、本学の「学生第一」という基本方針に基づき、学生の立場を中心に考えて全学休講という措置を決定した。まだ発疹が無く発熱のみのカタル期の学生が、登校して感染を拡大してしまうことを防ぎ、さらに地域への感染拡大を防ぐためには、休講が最も有効な手段と考え、決断に至った。休講期間としては、4月18日からゴールデンウィーク最終日の5月6日までの19日間とした。この期間は、休講直前に感染を受けた学生が、10〜12日という潜伏期間と数日間のカタル期を経て、発疹を生じて診断に至るまでに十分な期間と思われた。

休講の決定と同時に、国立感染症研究所の助言を元に、4月20日〜4月26日までの7日間、本学保健センターで麻疹ワクチンの集団接種を行うことも決定した。本来はより短期間での接種が望まれたが、接種体制等の都合上、7日間かけて行うことになった。対象は当初、未罹患の寮生と、寮生以外は未罹患未接種の学生、教職員と考えたが、接種歴のある学生が複数発症していることも考慮し、寮生以外も未罹患者全員を対象とすることとした。費用については、緊急事態という点から、全額大学負担で行うこととした。休講とワクチン接種の徹底により、講義再開後は、学内に流行が再燃する可能性はきわめて低くなると予想された。

また、この日までは、入院の適応なしとされた寮生は、寮内の隔離部屋に移されて、既罹患の学生が食事などの世話をしていたが、対策委員会で協議し、校舎群から離れた場所にある合宿所を寮生の発症者および発熱者のための隔離施設とし、管理者による生活管理のもと、保健センターの医師と看護師が毎日往診を行った。

4月18日の対策委員会には国立感染症研究所の多屋先生に出席していただき、麻疹についての基本的な説明を受け、対策への具体的なアドバイスをいただいた。ワクチン接種についても詳細に打ち合わせをし、特に問診のポイントの確認、体温測定は屋外で行い、発熱者は屋外において受診の指導を行うという点や、副反応に対する準備などの確認をした。そしてこの日、大学の公式ホームページに「本学学生のはしか感染について」を掲載した。

4月20日からのワクチン接種にあたっては様々な問題点があった。まず、寮生のほとんどが未成年であるという点。本人へのワクチンの説明文のほかに保護者への説明文も作成して本人から電話等で了解を得てもらい、問診票に保護者の了解を得たという項目を加えた。また、同時進行で保護者から承諾書をFAXしていただいた。

接種対象者を決める罹患歴の有無についての調査は、学生課が主導して各寮で緊急に行い、寮生の約72%から罹患歴なし、26%から罹患歴ありとの回答が得られ、残りは不明との回答であった。

ワクチンの確保については当初から困難が予想されたが、集団接種ということで、使用期限が迫ったものを中心に提供していただいたところ、十分量確保することができた。

次に、医師、保健師、看護師の確保という問題があった。基本的に、接種は5名の医師が行い、介助の看護師が2名ずつつき、その他、問診票のチェックをする保健師等含め、およそ一日に医師5名、保健師と看護師で計10数名を必要とした。特に4月20日当初は、人の確保に難航したが、保健所、地元八王子市医師会、他大学の応援等を得ることによって、接種体制を組むことができた。

ワクチン接種は、最初の3日間は寮生を中心とし、以降、寮生以外の学生、教職員等にも順次行い、7日間の接種者は 4,406人であった。この間、延べで医師41人、保健師と看護師計 135人が接種に従事した(1日実働で1人と計算)。接種者は、接種後30分間、様子観察のために控え室で待機させたが、この待機中に、接種後約10日間はワクチンの効果が間に合わず発症する可能性があること、発熱1日前から周囲への感染力があることを認識させ、アルバイトや子供と接すること等は極力慎むよう注意喚起して、毎日の検温を促した。

休講中、自宅生や帰省した学生には、近医でのワクチン接種を勧めていたが、接種できなかった学生のために、ゴールデンウィーク明けの講義再開直後にも、日程を決めて追加接種を行ったほか、発熱者はカタル期の可能性があるため、登校を控えるよう(発熱で休んだ場合は欠席扱いとしないという特例を設けて)徹底し、講義再開に伴う流行の再燃防止に努めた。その結果、講義再開後は、既罹患と思って今回ワクチンを接種しなかった1名のみ発症したが、そこから周囲への拡大はなく、流行は終息した。ワクチン接種者の累計は、本学保健センターで5,242人、他の医療機関で818人、計6,060人であった。

今回、新入生を中心に入学直後のガイダンス期間に麻疹が流行したこと、過去にワクチンを接種した学生も多数発症したという事実(寮生の発症者中、過去の接種歴ありは50%、接種歴なしは40%、接種歴不明が10%であった)を考慮し、来年度から、入学時(入学前)の抗体価測定、抗体非保有者に対するワクチン接種を推進していく必要があると思われ、現在協議中である。

創価大学保健センター
宮澤 裕 東裕利子 金田智子 鈴木宏子 染谷美貴恵

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