観光客利用者の多い飲食店におけるSalmonella Enteritidis食中毒事例

(Vol.28 p 200-201:2007年7月号)

2007年2月、那覇市内の飲食店においてSalmonella Enteritidis(以下SE)による食中毒が発生した。本事例は主に観光客が利用する人気料亭が原因施設であったため、患者は東京、奈良、宮城など17都県にまたがり、利用者1,753名、有症者241名を超える大規模な食中毒事件に発展した。その概要について報告する。

2007年2月13日(月)、県薬務衛生課を通じ東京都より、同月10日から2日間にわたり、社員旅行で来沖した98名中40名が食中毒様症状を呈しており、同旅行日程中に利用した施設の調査について依頼があった。その関連施設のうち、那覇市内の飲食店について、さらに複数県の同飲食店利用者が食中毒様症状を呈しているとの情報を入手したため、立ち入り調査を行った。

2月14日、施設に対し利用者名簿の提出依頼、調理場の調査を実施した。調理人からの聞き取りにより、未殺菌液卵(卵黄)を材料としたウニソース(焼伊勢海老用)を数日分(500食分以上)一度にまとめて調製していることが判明した。

収去したウニソースをDHL、SS寒天培地に直接分離培養を行い、平行してウニソース、伊勢エビウニ焼きおよびその他の食材について緩衝ペプトン水で前増菌、ラパポート・バシリアディスブイヨンで増菌培養した後分離培養を行った。

2月15日ウニソースの直接分離培地からサルモネラ菌の定型的集落が確認された(後日、確認試験でSEと判定された)こと、有症者症状がサルモネラ食中毒の症状に合致していることから、サルモネラ食中毒が疑われた。

同日、当該施設より利用者名簿を入手し、症状の有無について聞き取り調査を開始した。

東京都の有症者10名の便から、サルモネラO9群(後日SEと判定された)が検出され、早急に改善措置を行わせる必要性から、同施設に対して5日間の営業停止処分を命じ、施設の改善指導、従事者への衛生教育を行った。

2月9日〜11日にわたり同施設で提供された食事のうち3日間とも提供されたものは数種類みられたが、そのうち全くの同一ロットであるといえるものは伊勢海老ウニ焼にかけられたウニソースのみであり、また、ウニソースからSEが分離されたことから、当該食品を原因食品と断定した。

後日、国立感染症研究所にて奈良、宮城および茨城県で分離された患者株と検食の伊勢エビウニ焼き、ウニソースおよび従業員の便から分離したSEについて、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)およびファージによる型別を実施し、詳細な株の比較を行った。その結果、各県の患者分離株、伊勢エビウニ焼きおよびウニソースのファージ型はPT21でPFGEパターンも一致した。しかし、従業員便からの分離株のPFGEパターンは一致したものの、ファージ型はPT6aで異なっていた()。なお、従業員は当該食品を食していなかったため、汚染源はウニソース原料の未殺菌液卵(卵黄)であったと推測された。

原因食品の伊勢海老ウニ焼は、半分に割られた伊勢エビの上にウニ、液卵、油などで調製されたウニソースをかけて熱風で焼き上げ仕上げる。伊勢エビの身はいったん殻から取り出し、食べやすい大きさに刻んだ後再び殻の中に戻されており、刻まれた身の間や、身と殻の間にソースが入り込むと加熱不足が起こりやすいと考えられた。

ウニソースは数日分まとめて調製されたため、2月9日〜11日の3日間にわたってSEに汚染されたウニソースが提供されつづけたことになる。

当該飲食店の利用客名簿から推定した3日間の総利用者数は1,753名(うち、調査票が回収できたのは566名分)であり、有症者数241名が確認された。

当県ではホテルや飲食店にて卵を用いたソースを原因食品としたSEの集団食中毒が過去に数件発生しており、衛生講習会においても卵を使用した料理の作り置きの危険性についてたびたび注意喚起をしてきたところであったが、今回の事例により、さらなる周知の重要性を認識した。また、今回の事例をとおし、SEの疫学マーカーは、PFGEおよびファージ型別試験の両方を実施することにより、さらに詳細な情報が得られることを再認識した。

沖縄県中央保健所 喜友名康幸 桑江常和
沖縄県衛生環境研究所 久高 潤
沖縄県薬務衛生課 富永正哉 上原寛明
茨城県衛生研究所 笠井 潔
奈良県保健環境研究センター 大前壽子
国立感染症研究所細菌第一部 泉谷秀昌

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