ふれあい動物イベントが原因とされた腸管出血性大腸菌集団感染事例の概要−秋田県

(Vol.28 p 198-200:2007年7月号)

2006(平成18)年5月に秋田県で腸管出血性大腸菌(EHEC)集団感染事例が発生し、その発生要因が秋田県内の某テーマパークで開催された「ふれあい動物イベント」において動物に接触したことと断定された。EHEC感染症において発生要因が特定されることは稀であることに加えて、動物との接触が発生要因であるEHEC集団事例は全国的にも希有であることから本集団感染事例の概要について報告する。

表1にゴールデンウイーク後のEHEC O157:H7(VT1&2+)患者発生状況を示す。2006(平成18)年5月10日〜6月2日にかけて8名のEHEC O157:H7(VT1&2+)感染者が確認された。患者の症状は表1に示すとおりであり、20代、30代の患者も含み全員が入院加療を要するなど、患者の症状は全般的に比較的重篤であった。接触者検査では連番3、4、5に陽性者が認められた。これらのうち連番3と4は家族、連番5は親密な友人であった。ゴールデンウイーク後の短期間にEHEC O157感染者が県内で相次いで発生したことには何らかの疫学的背景があるものと推察されたことから、分離株のXba Iパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを逐次比較した。その結果、分離株のPFGEパターンがバンド1本を除き一致することが確認された。表1にそのパターンをAおよびA'として示し、また、図1にそれらのパターンを示した。連番5の友人から分離された株のパターンもA'であった。なお、表1の備考に示すとおり、後にパターンAとA’には感染研によりそれぞれType No.b96とb99の型番が付与された。

保健所の疫学調査により、連番1〜5までの患者が県内の某テーマパークで開催された「ふれあい動物イベント」に入場していることが明らかとなった。連番6と7の夫婦については、夫婦は当該イベントに入場していないものの、夫婦の息子夫婦が当該イベントに入場していることが明らかとなった。接触者検査で息子夫婦はEHEC陰性であったものの、発症時期からも夫婦は息子夫婦から二次感染を受けた可能性があるものと推察された。なお、連番6(70代女性)は5月19日に発症し、その後溶血性尿毒症症候群(HUS)と脳症を併発したことにより6月11日に死亡した。これは秋田県において公式に確認されたEHEC感染による死亡者の第1例である。連番8の患者は分離株のPFGEパターンがAであったことから当該イベントとの関連が示唆されたものの、患者にも家族にも当該イベントへの入場歴はなかった。ただし、保健所の疫学調査の結果、患者の父親がイベント会場近くの中華料理店に勤務していることが明らかとなり、この患者についても発症時期の関係から何らかのルートで二次感染を受けた可能性があるものと推察された。一方、連番9の患者はHUS を併発した後に医療機関から当所に菌検索が依頼されたが、抗菌薬治療後であったために菌は分離し得なかった。このため、各種の大腸菌O抗原に対する血清抗体価を凝集法により測定した結果、O157抗原に対して抗体価の上昇が認められたことから、O157感染が示唆された。この患者は5月3日に「ふれあい動物イベント」に入場し、5月8日に発症したことから当該イベントへの入場と発症との関連が示唆された。

表2に示すとおり、ゴールデンウイーク後にEHEC O26(VT1+)患者も相次いで発生した。これらの事例についても分離株のXba I PFGEパターンを比較した結果、連番1〜3の分離株のパターンが同一であることが明らかとなり、保健所の疫学調査により連番1の患者が5月5日に「ふれあい動物イベント」に参加していたことが判明した。一方、連番2と3の患者は同一保育園に通園していることが明らかとなり、担当保健所は2名を除く園児全員(65名)の検便を実施した。その結果、17名がEHEC O26(VT1+)に感染していることが判明した。保健所の疫学調査の結果、これら17名のうち3名が「ふれあい動物イベント」に参加していることが明らかとなった。なお、17名から分離されたEHEC O26(VT1+)にはXba I PFGEパターンがBの株に加えて、Bとバンド数本以内の違いがみられるB'パターンとB''パターンの株がそれぞれ1株認められた。以上の結果は、この保育園内で二次感染によりEHEC O26が感染したことを示唆していた。

表3に「ふれあい動物イベント」の概要を示す。開催期間は2006(平成18)年4月29日〜5月8日、入場者数は33,989名(うち子供12,257名)であった。出展動物は表3に示すとおり多彩であり、合計約450頭であった。展示動物はすべて県外の業者から持ち込まれたものであった。関係機関との調整を経て当該業者の協力を得、7月に入り感染源調査を実施した。その結果を表4に示す。7月12日にホルスタインの便1検体、7月20日にヤギの便5検体とヒツジの便5検体、9月1日にヤギの便10検体が当所に送付され、これらについてEHECの検索を実施したところ、7月20日に採取されたヤギの便1検体からEHEC O157:H7(VT1&2+)が分離され、当該株のXba I PFGEパターンが患者由来株のパターンと一致するパターンA'であることが確認された。なお、供試した動物便からEHEC O26は分離されなかった。

2006(平成18)年11月7日に「秋田県健康づくり審議会感染症対策分科会」が開催され、県内各方面の有識者により以上の調査結果が検討された。その結果、これらの事例は「ふれあい動物イベント」で動物に触れたことが原因であるEHEC O157:H7(VT1&2+)集団感染事例と断定され、EHEC O26についてもEHEC O157:H7と同様の要因により発生した集団感染事例である可能性が濃厚であるものと結論づけられた。また、本事例の発生要因としては、手洗い場が出口から最も遠い場所であったこと、出口に設置した消毒用エタノール噴霧器中の消毒用エタノールが2倍に希釈されていたこと、牛の排泄物処理係がふれあいコーナーのヤギ、うさぎ等の世話係を兼ねていたことなどである可能性が指摘された。

本事例は「動物との接触」がEHEC集団感染事例の発生要因となり得ることを示す貴重な事例であった。また、秋田県で初めて公式にEHEC感染による死亡者が確認された事例ともなった。なお、本事例発生後に青森県においても類似の事例が発生(IASR 28: 116-118, 2007参照)したことが報道され、同様の事例が国内でさらに発生し得ることも実証された。同様のイベントにおける再発防止策としては、動物に接触した後の手洗い・消毒を徹底するよう啓発する、ふれあい前後に手洗い可能な動線となるよう会場をアレンジする、適切な消毒剤を使用する、動物由来感染症の知識を有する係員を配置する、会場を適切に消毒する、ふれあい動物用に借り受ける動物の健康管理を確認し、展示中に体調異常を呈した動物はその他の動物から隔離することが提唱された。これらに加えて、「動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003」を遵守することも重要と考えられ、本事例で得られた教訓を活用しながら今後もEHEC感染による健康被害の発生予防に努める必要があると考えられた。

秋田県健康環境センター微生物班細菌担当
八柳 潤 齊藤志保子 今野貴之 山脇徳美
前秋田県健康推進課 斉藤健司 三浦鐵晃

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