インフルエンザの感染伝播:感染制御における方針と実践に関する研究の必要性

(Vol.28 p 172-172:2007年6月号)

パンデミックの可能性という背景のもと、近年ヒトインフルエンザに関心がもたれ研究されている。文献考察によれば、感染伝播を予防あるいは減少させるための基本事項に関するものも含めて、研究ごとの報告内容は著しく異なっており、いまだ解決されていない重要な問題点も残されているのが現状である。今後特に、以下の重要事項に関する研究が必要とされている。

発症前や無症状の者からの感染伝播:実験的および観察的研究から、多くの場合、症状発現の少し前より、気道からの低レベルのウイルス排出が始まること、また、血清学的研究から、インフルエンザの感染を示す抗体を持つが無症状であった人がしばしば見られること、また、その他の研究から、流行期には、実際に報告されている患者よりさらに多くの人がインフルエンザに感染していると推定されること、が報告されている。しかしながら、無症状あるいは発症前の者からの感染に関する報告はほとんどなく、そのような感染の公衆衛生的重要性は不明である。そのような感染伝播は、感染連鎖の維持という点では重要かもしれないが、起こる感染としては軽症か無症状に終わるのではないかと考えられる。

間接的伝播:インフルエンザウイルスが、ステンレスやプラスチックのような無孔な表面でも数時間、あるいは数日間生存できることを示す研究があるが、このような物を介してのヒト−ヒト感染を系統的に研究した報告はない。また、手洗いが一般的な呼吸器感染症を減少させる試験的研究はあるものの、インフルエンザウイルス伝播における効果について検証したものはない。

接触伝播:これには、大きな飛沫を介した直接的または間接的接触による伝播が含まれる。インフルエンザが咳嗽、くしゃみによって伝播することはよく知られているが、そのときに産生される5μm以上の飛沫は大抵の場合すぐに落下し、感染者から1m以上離れることで伝播の危険性はすみやかに減少する。インフルエンザウイルスが空気感染、あるいは5μm未満の飛沫(エアロゾル)により伝播するかについては、よりいっそう不確かな点が多い。Brankstonら(Lancet Infectious Diseases, 2007)は、人工呼吸管理や気管支肺洗浄などの処置を実施するような病院の特殊な環境でなければ、エアロゾル感染の起こる可能性は低いと述べている。

医療現場における予防および感染制御方針:施設や医療現場でインフルエンザの伝播防止策としてとられているものに、予防的アプローチと実践的アプローチの2通りがあると思われる。予防的アプローチは、あらゆる経路による感染(エアロゾル感染を含む)を防止しようとするもので、とくに医療スタッフおよび家庭内看護中の家族に対して適用され、当然レスピレーター(N95マスクなどの高性能呼吸器防御具)が広く用いられることになる。これに対して実践的アプローチでは、レスピレーターは、特殊なハイリスクな環境(医療現場や、鳥インフルエンザA/H5N1など病原性の高いものを扱う場合)以外では実際上使用は困難であり、それ以外の環境(季節性あるいはパンデミックのヒトインフルエンザ患者を扱う場合)ではサージカルマスク(外科用マスク)だけで十分だと述べている。

一般社会におけるマスクの使用については、賛否を明確に断定することは困難な状況ではあるが、病院においての考え方からすれば、在宅や診療所でも、1m未満の近距離で症状のある患者に対応する家族、医師、看護師がサージカルマスクを着用することは肯定することになるであろう。

(Eurosurveillance Weekly 12, 10 May, 2007)

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