保育園における腸管出血性大腸菌O103による集団感染事例−宮崎県

(Vol.28 p 118-119:2007年4月号)

2006年8月、宮崎県において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O103:H2(VT1産生)による保育園集団感染事例が発生したので、その概要を報告する(表1)。

8月5日、宮崎県内の医療機関より、EHEC O103 (VT1産生)による下痢症患者が発生したとの届出があった。患者は1歳の男児で保育園に通園していたため、管轄保健所は直ちに患者家族および保育園の調査を開始した(患者家族:家族の健康調査・保健衛生指導等、保育園:園児や職員の健康調査・保健衛生指導等)。その後、8月9日、8月10日に保育園同一組(A組)の2名の園児から新たにEHEC O103が検出されたとの届出があったため、集団感染を想定して対応を行った。検便については、当初、家族および保育士のみを対象としたが、その後上記2名の園児の届出があった時点で、保健所所内協議の結果、A組園児全員および他の組の園児についても有症状者については検便を実施することとした。

保健所による細菌検査では、便をトリプトソイブイヨン(TSB)で一夜培養し、PCRでVT遺伝子の有無を確認した後、VT陽性の培養液をCT-SMAC 培地およびクロモアガーO157 TAM培地に塗抹培養し、培地上のコロニーからPCRによりVT遺伝子陽性の菌を検出した。分離菌は、CT-SMAC培地でピンクコロニー(ソルビトール分解+)、クロモアガーO157 TAM培地で青紫色のコロニーで、確認培地により大腸菌と同定した。血清型は市販の免疫血清によりすべてO103:H2と決定した。本血清型菌は、宮崎県では、2005年に3例の散発事例から分離されたのみであるが、全国的には、2000年代に入ってから、O157、O26、O111の主要な血清型と比べ、検出率では相当開きがあるとはいえ、これらに続き、よく検出される血清型となってきたことが示されている(IASR)。

結果として、事例全体で、A組園児20名、B組園児3名、職員16名、家族31名の合計70名(保健所で66名、医療機関で4名検査)の検便を実施し、A組園児8名(そのうち2名は兄弟)、職員1名、患者家族3名(そのうち1名はB組園児)の計12名から、EHEC O103:H2(VT1 産生)を検出した(表2)。12名の感染者のうち有症状者は8名であったが、主要症状は下痢、軟便と比較的軽症であった。

図1に菌分離陽性者の発症状況を示した。初発患者の発症7日後から、保育園、および家族内で、次々と発症が見られている。このことから、今回の事例では、初発患者の発生原因は特定できなかったが、2例目以降の感染は、保育園および家族内で人→人感染により広がったと推測された。

また、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析(制限酵素Xba I使用)の結果、分離株12株は、同じ、あるいは、1〜4本異なるDNA切断パターンを示し、同一由来の菌であると考えられた(図2)。

本事例発生期間中、保健所は保育園に対し、調理や食事等についての指導や、感染予防・消毒等についての指導を行い、毎日の園児の健康確認、玩具および部屋の消毒の徹底を指導した。また、集団発生への対応のため、保健所職員により当保育園保育士全員への説明会を行った。

最終的に、類似患者発生が見られなくなり、また患者および接触者の病原体消失が確認されたことにより、9月11日に本集団事例を終息した。

宮崎県中央保健所
村岡涼子 岡崎美智子 藤本洋子 城 信俊 吉田りつ子 清山智子
大浦裕子 平川一夫 川畑紀彦
宮崎県小林保健所 重黒木真由美
宮崎県衛生環境研究所
河野喜美子 岡田美香 塩山陽子 井料田一徳 若松英雄

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