ノロウイルスによる集団胃腸炎事例−長崎市

(Vol.28 p 12-12:2007年1月号)

2006年9月〜10月にかけて、長崎市内において3件のノロウイルスgenogroup(G) IIの集団事例が発生したので、その概要を報告する。

事例1:9月25日、長崎市内の医療機関から長崎市保健所に、9月14日から下痢、嘔気、嘔吐を主徴とする入院患者や職員らが続発しており、ノロウイルスによる院内感染が発生している疑いがあるとの届出があった。調査の結果、9月14日〜25日にかけて発症しており、年齢層は1〜37歳、入院患者10名、患者の家族3名、医師を含む医療従事者10名の計23名に及び、発症者15名の検便の結果、10名からリアルタイムPCR法でノロウイルスGIIが検出された。発症者の行動調査から、嘔気を主症状として14日と21日に入院した各々の患者を発端として、同室の患者らに感染したと推定された。同病院では、本発生が院内感染による可能性を疑い、21日から発症した患者らを同室に集めるなどの対策を実施していた。

事例2:10月5日、長崎市内の医療機関から長崎市保健所に福祉施設の入所者数名が食中毒様症状を呈しているとの届出があった。調査の結果、4日〜7日にかけて嘔吐、下痢を主徴として、入所者19名が発症した。患者(入所者)12名、調理従事者5名と検食者1名の計18名の検便の結果、入所者12名全員と調理従事者1名からリアルタイムPCR法でノロウイルスGIIを検出した。ノロウイルスが検出された調理従事者は、3日から下痢等の症状を呈していたが、3日の昼食と夕食、4日の昼食の調理・盛り付けを行っていた。その後、入所者が5日をピークに発症し、その流行曲線から食品による単一曝露が疑われた。また、当調理従事者以外に症状を呈した職員がおらず、患者の発生が、部屋やグループなどの接触行動と特異的な関係が認められなかったことから、当調理従事者が調理・配膳した食事を中心に、39件の検食・施設ふきとりの検査を行ったが、ノロウイルスは検出されず、原因および汚染経路の特定には至らなかった。

本事件では、入所者に高齢者が多く、嘔吐の症状を呈する者が多かったことからニ次感染が認められたものの、探知が早く1施設内での発生であったため、消毒等の措置が迅速にとれたことから、7日の発症を最後に終息した。

事例3:10月14日、長崎市内で10月7日に行われた結婚披露宴の出席者で食中毒様症状を呈したものが複数名いる旨の連絡が長崎市保健所に入った。調査の結果、75名の出席者中、30名が嘔吐、下痢、腹痛等の症状を呈していたことが判明した。出席者14名の検便の結果、8名からリアルタイムPCR法でノロウイルスGIIを検出した。患者らは6〜62歳、7日〜11日にかけて9日をピークに発症しており、ノロウイルスが検出された患者の接点が当披露宴のみであり、披露宴の食事による曝露が疑われたが、食品残品は無く、調理・製造従事者14名および施設ふきとり17検体からはノロウイルスは検出されなかった。

当発生については、披露宴での曝露が原因と疑われたが、届出が発生から1週間経過し、十分な調査ができなかったこともあり、原因推定が困難な事例となった。

長崎市において例年より早い時期に発生が続いており、このような流行初期における集団発生は、感染の流行を拡大化させる要因になると思われ、今後の発生増加が予測される。流行期をむかえるにあたり、ノロウイルスの特徴を十分に理解し、的確な発生防止対策の徹底を啓発し、まん延防止対策を迅速に行うことが重要と思われた。

長崎市保健環境試験所細菌血清検査係
海部春樹 飯田國洋 植木信介 江原裕子 島崎裕子

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