回転寿司店における赤痢菌の食中毒事例−金沢市

(Vol.27 p 340-341:2006年12月号)

2000(平成12)年から赤痢菌が食中毒の原因菌に加えられ、2001(平成13)年から食中毒統計に掲載された。全国的に赤痢菌による食中毒発生件数は1〜3件/年と少ない中、市内の回転寿司店で赤痢菌(Shigella sonnei )による食中毒事件が発生したのでその概要を報告する。

概要:2006(平成18)年9月22日金沢市内の異なる病院の医師より、受診した患者2名および1名の検便から赤痢菌を検出したとの届出があった。この患者の調査を行ったところ、いずれも9月16日に市内の同じ回転寿司店を利用しており、一方は家族5名で利用し、うち4名が感染・発症、一方は単独で利用していることが判明し、この回転寿司店が原因の食中毒事件とした。

また、従業員18名のうち3名からも赤痢菌を検出したが、この3名は時々自店の寿司を食べており、9月16日にも喫食していた。

さらに、9月24日から相談窓口を開設して検便を実施したところ、新たに2名から赤痢菌を検出した。この2名はそれぞれ9月15日と9月16日に同施設を利用しており、合計で10名が患者と判明した。

主症状:患者の主症状は下痢(水様性下痢)、発熱(平均38.8℃)、腹痛、悪寒であり、原因食品の摂取から発病までの潜伏時間は平均62.7時間であった。

原因の探求:この店は金沢市内および近郊に4店舗を構えるチェーン店の1店である。この4店舗で使用される魚、野菜、その他の食材の仕入れは基本的に同じであるが、(1)他の3店舗で患者の発生がなく、また市内および近郊の病院等から赤痢菌感染者の届出がない。(2)この店で喫食し赤痢菌に感染した者は、共通する寿司ネタを食べていない。(3)客はセルフサービスで氷り入りの水を飲むことができるが、利用していない人も感染している。(1)〜(3)の理由により食材、水、氷のいずれも原因とは考えられない。

原因施設には、調理員は4名おり、15日はそのうち3名、16日には4名全員が調理に従事し、下処理から握りまでの作業を行っていたが、患者が食べた寿司を誰が握ったかは不明であった(カウンター内の各ネタケースの前には担当の調理人がそれぞれ立ち、寿司を握るが、ネタケースにはそれぞれ主要な寿司ネタが入っており、同じネタでも全員が握ることがあり得るため)。

患者10名のうち9名は9月16日、他の1名は9月15日に喫食している。

特に16日の利用者の喫食時間は20時〜23時頃に限られていることから、この時間帯に提供された寿司に赤痢菌が付着していたと思われる。

従業員(アルバイトを含む)は2カ月に1回の検便を実施している。前回は7月下旬〜8月上旬に実施し、保菌者は報告されていない。また、従業員(アルバイトを含む)の健康チェックを毎日実施しているが、9月中に体の具合が悪かった人の記録はなかった。しかし事件後保健所が行った従業員の調査では、7名が9月17日頃から風邪の症状および下痢の症状があった。このうち3名の検便から赤痢菌を検出しているが、下痢、発熱などの症状を呈したのは早い人で9月19日であった。なお、従業員に海外渡航の経験者はいなかった。

病因物質の検索:寿司店利用者7名、従業員3名、従業員家族2名(原因食品を摂取していないので食中毒患者として計上していない)から検出した赤痢菌12株の生化学的性状、病原因子、薬剤感受性の主な結果をに示した。検出菌12株はすべて典型的なShigella sonnei の生化学的性状を有しており、免疫血清型では寿司店利用者の2名にS→R変異による2相の混在がみられた。病原因子をPCR法で検索した結果、全株がinvE およびipaH を保有していた。

また、自動同定装置(ニッスイ)を用いたMIC法による18薬剤の感受性試験の結果では、に示したとおりABPC/SBT、PIPCで1〜数株が中度耐性あるいは耐性を示すが、ABPC、GM、STは全株耐性、CEZ、CTX、CAZ、CFPM、CPDX、FMOX、IPM、AZT、AMK、CPFX、LVFX、MINO、FOMは全株感受性と、16薬剤の結果は一致した。

結論:今回の食中毒事件について、赤痢菌がどこから持ち込まれたものか検証を行ったが、感染(汚染)ルートは明らかにならなかった。同じ食材を仕入れ使用しているチェーン店において患者の発生がないことから食材は原因でないと判断した。

喫食調査の結果から発症者が感染したのは、限られた日の限られた時間帯である。このことから特定の人が限られた時間(例えば、保菌従業員が大便でトイレを利用した直後など)に握った寿司に菌が付着していた可能性が非常に高く、患者が喫食した9月15、16日には既に従業員の中に保菌者がいたことが考えられ、食材からではなく人からの汚染が強く疑われ、十分な手洗いが常になされていれば、予防することができた事件であった。

この店舗では毎日従業員の健康チェックが行われ、記録も保存されるなど、衛生管理に取り組む姿勢は見られたものの、時間給で働くアルバイトがほとんどであり、体に異常があっても申し出ない現状が見受けられた。飲食業界における価格競争の陰に衛生管理のルーズさが垣間見られた。

金沢市保健所衛生指導課
食品衛生担当 岡部佐都瑠 吉田裕雪 澤村範保
衛生検査微生物担当 梨子村絹代 宮本千加子 吉藤香代

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