A型肝炎ウイルスによる食中毒事例−滋賀県

(Vol.27 p 341-342:2006年12月号)

滋賀県N保健所管内で、2006(平成18)年8月にA型肝炎ウイルス(以下HAVとする)を原因とする食中毒事件が発生したのでその概要を報告する。

9月3日にN市内の医療機関から急性肝炎で患者3名が入院している旨の連絡がN保健所にあった。同保健所が調査したところ、入院患者3名のうち1名がA型肝炎と診断され、さらに、N市内の他の医療機関にも同様の患者が3名入院し、うち2名がA型肝炎患者として届出された。

上記の患者6名は、いずれも7月29日にM市内の飲食店Kで開催された地区自治会の親睦会に参加しており、オードブル料理を喫食していた。また、7月29日および30日に同飲食店を利用した14グループを調査したところ、さらに3グループ5名が同様の症状を呈していた。

また、飲食店Kで調理・盛りつけに従事していた調理従事者Cは、7月30日の夜に腹痛等の症状を呈したため救急受診し、8月2日に再度受診、翌3日に入院し、A型肝炎と診断された。その後、9月4日にA型肝炎の届出があった。

N保健所は、共通食事が当該飲食店における会食または仕出し料理であり、発症者の症状はいずれも類似しており、発症者の4名および調理従事者CがA型肝炎と診断されたこと、診察医師から食中毒の届出があったことから、食事を提供した飲食店Kを原因施設とする食中毒事件と断定し、食品衛生法第55条の規定に基づき、同法第6条違反の原因施設として、2006年9月7日〜9月9日までの3日間の営業停止処分とした。

保健所の調査により、症状があると申し出のあった有症者17名および飲食店従業員12名(調理従事者Cを除く)の糞便29検体について、リアルタイムPCRおよびRT-PCR法[2002(平成14)年8月16日付け食監発第 0816001号「ふん便及び食品中のA型肝炎ウイルスの検査法について」]によりHAV遺伝子の検出を行った。その結果、有症者17名中12名からHAV遺伝子が検出されたが、従業員12名からは検出されなかった。同時に、有症者17名とその後にA型肝炎を発症した3名、計20名の血清について、A型肝炎抗体検査を国立感染症研究所ウイルス第2部第5室に依頼したところ、そのうち15名がA型肝炎IgM抗体陽性と判定された。

また、A型肝炎を発症した調理従事者Cが発症前からHAVを排出した可能性を考慮し、発症2週間前の7月20日〜調理従事者Cが入院する前日の8月2日までの間、当該飲食店を利用した62グループの 720人について健康調査を行ったところ、患者は7月29日および30日の利用者に限られており、両日の喫食者は235名で、そのうちA型肝炎患者は15名、発症率は6.4%、発症までの平均潜伏時間は29.3日であった(図1)。

さらに、調理従事者Cの家族1名が食中毒発生時期と同時期にA型肝炎を発症したが、調理従事者Cが当該飲食店で調理した食品は喫食しておらず、家族内での二次感染が疑われた。

そこで、本事例におけるA型肝炎患者家族への二次感染の状況を把握するため、9月末〜10月初めに協力の得られた患者家族の糞便30検体について検査を行ったが、HAV遺伝子は検出されなかった。

調理従事者Cの糞便検査を経時的に行ったところ、発症後41日〜64日目の糞便においてもHAV遺伝子が検出された(図2)。HAVが検出された有症者12名、調理従事者C、およびCの家族の14検体について、HAV+2799/HAV-3273プライマー増幅産物のダイレクトシークエンスを行った結果、解析可能であった7検体はいずれも遺伝子配列が一致し、genogroup (G) IAに分類された。DDBJにおけるBLAST検索ではaccession No. AB020567に近縁であった。

HAVに感染していた調理従事者Cは、感染したと疑われる約1カ月前に海外渡航歴はなく、喫食状況調査においても原因となるものは特になく、感染経路は不明であった。

滋賀県衛生科学センター微生物担当
長谷川嘉子 松本文美絵 田中千香子 大内好美 林 一幸
滋賀県長浜保健所健康衛生課 澤 英之 西田直子
滋賀県県民文化生活部食の安全推進室
滋賀県健康福祉部健康推進課

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る