老人福祉施設で発生したサポウイルスによる集団感染性胃腸炎−滋賀県

(Vol.27 p 319-320:2006年11月号)

滋賀県長浜保健所管内で、2006年2月下旬にサポウイルスを原因とする集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

2月24日、老人福祉施設から感染性胃腸炎を疑う患者が複数人発生しているという連絡が管轄保健所にあった。保健所が調査したところ、2月19日から下痢・嘔吐を主症状とした複数の発症者があり、24日以降も発症者が拡大していた(図1)。2月19日〜3月3日(終息日3月24日)までの間に、入所者79名(平均年齢81.2歳)・介護職員21名の計100名中、入所者17名・介護職員1名の計18名が発症した。

入所者5名および職員1名の糞便についてRT-PCR法によるノロウイルス(NV)の検索を行った結果、NVは検出されず、また、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、アデノウイルスおよび下痢起因菌も検出されなかった。原田らの方法1)に従い、サポウイルス(SV)、アストロウイルスおよびアイチウイルスのMultiplex RT-PCR法による検出を行ったところ、6検体中5検体からSV遺伝子が検出された。そのうちの2検体について、SV-F11/SV-R1の増幅産物のダイレクトシークエンスを行った結果、キャプシド領域721baseが100%一致した。キャプシド領域の塩基配列を基に系統樹解析を行った結果、本事例で検出されたSV株はgenogroup (G) I のPotsdam/2000/DE(AF294739)に近縁であった。

保健所の調査によると、事件発生後、発症者は症状に応じて静養室等の別室で看護されていた。居室は1室2名であるが、発症者がそのうちの1名であることが多く、また発症者は建物の東側に偏っていた(図2)。感染が拡大した主な要因として、自力でトイレを利用できる入所者がトイレを利用した際に、汚物の処理や手洗いが不完全であったことが挙げられ、その汚染されたトイレを利用することで新たな患者が発生したと考えられる。

さらに、発症者が東側に偏った要因としては、東側の入所者は他者との交流が盛んで、比較的コミュニケーションが活発であったこと、また、食事以外に間食(お菓子・果物等)のやりとりをしていたことが挙げられる。この手洗い不十分な状態でのおやつ等食品のやりとりが施設内における感染を広げた大きな原因になったと考えられる。それに比較して西側の入所者は他者との交流がほとんどなく、食品のやりとり等がなかったため発症者がいなかったと推測される。

事件発生後は、職員により入所者に食事前の手洗いを徹底させ、またトイレの清掃・消毒ならびに施設全体の清掃の回数も増やし、感染拡大の防止に努めた。しかし、入所者の行動を 100%把握することは不可能であり、感染防止対策を徹底させた以降も新たな患者の発生が見られ、高齢者の入所施設における感染症対策の難しさを感じた事例であった。

 文 献
1)原田 誠也,他,熊本県保健環境科学研究所報 34: 31-36, 2004

滋賀県衛生科学センター
長谷川嘉子 田中千香子 大内好美 井上朋宏 辻 元宏
滋賀県長浜保健所
川村嘉彦 佐野幸代 野坂節子 角野文彦

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