メーリングリスト有志によるインフルエンザ流行情報のオンライン集積と公開

(Vol.27 p 308-309:2006年11月号)

本プロジェクトの発端

毎年冬季になると臨床現場では誰もがインフルエンザ(flu)の流行状況をもっと早く知りたいと思う。インターネット(INET)が普及した今日、臨床医によるメーリングリスト(ML)での報告と情報の交換が、宝樹真理(小児科・開業)により運営されている「小児科医フリートークメーリングリスト(Ped-ft)1)」と、東北大医の根東義明が主催する「日本小児科医メーリングリストカンファレンス(JPMLC)2)の2つで提案された(2000年秋発信:国立感染症研究所感染症情報センター砂川による)。提案は臨床のみの診断ではなく、普及が始まったfluの迅速診断テストを用いた症例の報告を求めるものであり、賛同したML参加者は自主的に毎日fluの検出状況をMLに投稿し、fluの流行に関する議論が続いた。筆者は、MLへの投稿ではなく、岐阜市医師会のWebサイト3)のような、学級閉鎖の状況をリアルタイムに集計するWebデータベース(DB)に症例報告をする運用がふさわしいと考え、砂川に提案し、これをきっかけに、flu発生の報告をWeb-DBに切り換えるとのアナウンスがMLに投稿された。それが現在まで続くプロジェクト「MLインフルエンザ流行前線情報データベース(以下ML-flu-DB)」の始まりである。Webサイト(http://ml-flu.children.jp)と併せて本稿をご覧頂きたい。

トップページ

1週間当たりの報告数が増えるに従って各都道府県の背景色が変化する。現在は、各都道府県ごとに1週間以内に1件以上報告した有志の一人当たりの報告が30件以上になると「赤」に変えて、流行が迫っていることへの警戒を促した。

他にML-flu-DBでリアルタイムに表示される情報は「報告件数の推移のグラフ、「fluのタイプ分類の推移のグラフ」、「都道府県単位の報告数地図表示」、「市町村単位の報告数」、「症例の年齢分布や性別」、「ワクチンの接種歴」、「治療薬剤」など、DBに格納された情報が様々な角度から集計がなされている。そしてさらに有志医師や関係者に周知を徹底するために、上記のMLや「ML感染症DBメールニュース4)」で日集計・週集計をメールにて自動配信を行っている。

ML-flu-DBでユニークな特徴は、「MyData」と呼ぶ有志医師に個別のflu診断状況の統計情報を提供した点である。個別パスワードを発行しログインしたページで、個別の報告件数の推移、タイプ別、年齢分布など、個別の集計結果も表示し、登録した症例を一括ダウンロードできる機能も備えた。また外来患者に対して自院のfluがどれくらい検出されたかを示すWebページも準備した。

現在の運用状況

現在は、厚生労働科学研究(新興・再興感染症事業)の「効果的な感染症サーベイランスの評価並びに改良に関する研究(主任研究者・谷口清州)」の分担研究として運営を続けている。例年300名程度の医師が有志となり、1シーズンに有志1人当たり平均150件程度の報告がある。fluのリアルタイムな流行情報を求めML-flu-DBのトップページの読み込み回数は10万回を超える。そして通年運用を行い夏期でもfluの報告を掲示している。

サーベイランスとの比較

本プロジェクトは、参加やfluの報告は有志医師の自主性に任され、サーベイランスと称するには代表性に問題がある。集まった検出情報ははたして実際の流行とどれくらい一致するのかの問題点があるが、次のような結果が得られている。

は2005〜2006年冬季の感染症週報(IDWR)とML-flu-DBの報告件数を比較したものである。または各運用シーズンのML-flu-DBとIDWRとの近似式と相関係数を示す。相関係数が0.8125〜0.9903と、両者の相関が極めて高い。これらから、INETで呼びかけた有志医師からの情報提供であっても、IDWRと非常に高い相関が得られることが明らかとなった。

今後の展望、有志医師の募集

昨今、東南アジアを中心とする世界各国で高病原性鳥インフルエンザの流行が報告され、パンデミックの懸念が高まっている。有志による報告でありながら、定量性も良く、そして質的な情報も迅速に周知するML-flu-DBは、新型インフルエンザの発生を前に運営が注目されている。

本プロジェクトが思いつきで終わらず、毎年多くの有志医師が集うことから、迅速な情報還元がなされれば、公益性が高いプロジェクトに積極的に参加される医師が大勢いることが分かった。そしてパンデミックに備え何か貢献できることがあれば、努力を惜しまない医師がML以外にもっと大勢いると想像している。

ML-flu-DBは迅速な情報運用を確立させたが、新型インフルエンザに対する早期警戒網としては、有志医師が足りそうにない。プロジェクトの「要(かなめ)」は参加してくださる有志の先生方であり、今後も本稿や各方面で本プロジェクトを紹介し、有志医師を募る予定である。

 参照URL
1)http://takaragi.umin.jp/pedft.htm
2)http://jpmlc.med.tohoku.ac.jp/
3)http://www.city.gifu.med.or.jp/
4)http://www.children.or.jp/ml/infection_INFO/

医療法人西藤こどもクリニック 西藤なるを

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