2005/06シーズンの札幌市におけるインフルエンザの流行状況について

(Vol.27 p 305-307:2006年11月号)

札幌市感染症発生動向調査において、2006年5月〜6月にかけてインフルエンザ患者報告数が再び増加し、また、同時期にB型ウイルスが多く分離されるなど、これまでにない傾向が認められた。そこで、2005/06シーズンの札幌市におけるインフルエンザの流行状況について報告する。

2005/06シーズンの札幌市におけるインフルエンザの患者報告は、2005年第48週の患者定点からの報告が最初であった。その後、第52週には定点当たりの患者数が1を超え、2006年第4週には10を超えて14.9となった。第5週の23.9をピークに減少に転じ、第9週〜第11週にかけて若干上昇傾向となったが、再び減少して第19週には 1.4となった。しかしながら、第20週(5月第3週)以降に患者数は再び増加し、第21週には 4.6まで上昇して小さなピークを形成した。その後、患者数は減少して最終的に第34週に1名の患者が報告されたのを最後に患者報告数は0となった。過去5シーズンと比較してピークの高さは4番目であったが、累計患者数は2004/05シーズンに次いで2番目に多かった(図1)。

一方、インフルエンザウイルスの初分離は、2005年11月30日(第48週)採取の咽頭ぬぐい液(2検体)から検出したAH3亜型ウイルスであった。その後、2006年第4週に26株分離されたのをピークに、最終的に第12週に2株検出されるまで継続的に分離され、シーズン合計147株分離された。AH1亜型インフルエンザウイルスは、AH3亜型の分離数がピークを迎えつつあった2006年1月21日(第3週)に採取された咽頭ぬぐい液から初めて検出された。その後、分離数は徐々に増加して、第9週にはAH3亜型にかわり主流株となり、第23週に1株検出されるまで合計111株分離された。B型ウイルスは2006年4月19日(第16週)に採取された咽頭ぬぐい液(2検体)から初めて検出された。翌第17週にはAH1亜型にかわり主流株となり、第28週まで継続的に分離され、合計68株分離された(図2)。

これらの患者報告数およびウイルス分離の動向から、シーズン初めの患者数のピークはAH3亜型、第9週から再上昇したのはAH1亜型、5月以降の小さなピークはB型ウイルスの流行によるものと考えられる。

インフルエンザウイルスが分離された患者の年齢分布を図3に示す。AH1亜型11歳以下が大部分を占めており(103/111)、特に5〜9歳からの分離数(75株)が多かった。AH3亜型はほぼすべての年齢層から分離されたが、他の型と比較して20〜40代からの分離が多かった。B型は主に10代から分離され、10代以下からの分離が98%を占めた。

今シーズン分離されたAH3亜型ウイルスは、ワクチン株であるA/New York/55/2004に対する抗血清(ホモ価2,560)とよく反応するものであり、HI価は1,280〜5,120であった。AH1亜型ウイルスについては、A/New Caledonia/20/99に対する抗血清(ホモ価 1,280)に対しHI価 160〜 1,280と幅があった。B型ウイルスは、Victoria系統に属するB/Brisbane/32/2002に対する抗血清(ホモ価2,560)に対してHI価2,560〜5,120を示した。2004/05シーズンのB型の主流であった山形系統のウイルスは分離されなかった。

これまでに、日本国内各地から非流行期のインフルエンザウイルス分離や、海外渡航者からのインフルエンザウイルス分離が報告されている(IASR 26: 222, 243-244, 244-245, 302-303, 303-303, 303-304, 2005 & 27: 232, 2006)。今回、札幌市においても、これまでは流行が終息していた時期にB型インフルエンザの流行が確認された。近年、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスや、新型インフルエンザウイルスによるパンデミックが危惧されており、その対策としても日常の感染症の発生動向を把握することは非常に重要であり、今後も流行期のみならず年間を通じてインフルエンザの発生動向に注意を払い、監視を続けることが必要である。

札幌市衛生研究所
菊地正幸 山本 優 吉田靖宏 宮下妙子 藤田晃三

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