最近の結核集団感染事例の様相

(Vol.27 p 257-258:2006年10月号)

1人の患者が感染源となって多数の人(現行では20人以上の人)に感染を及ぼす場合を集団感染と定義する。ここで二次患者1人の発生は感染6例分に相当するものとして換算する。この定義に基づき、該当する事例については保健所から厚生労働省にその内容や経過を報告することになっている。

は最近7年間(2006年は7月まで、また2005年は一部未報告の可能性がある)について、報告された事例の発生集団の区分を見たものである(2種以上の区分にまたがる場合には主要な方をとる)。学校が全体の約 1/3を占めるが、残りは事業所や医療機関等、より年長の者の集団生活の場で発生している。とくに「その他」は飲食店やサウナ、ネットカフェといった不特定多数の人の交わる場所であり、最近発生の目立つ集団の区分となっている。

このようなことも含めて最近の集団感染の特徴と関連要因をまとめてみた。

(1)大規模発生例(第二次発生患者数や感染者数の異常に大きい事例)がめだつ()。これには極端な発見(受診や診断)の遅れとともに、接触環境条件(換気が不良、濃密・長期の対人接触など)が重なって寄与している場合が多い。ときに菌の側に異常な感染力・毒力といった要因が想像されるケースがある。

(2)院内感染において、患者と医療従事者間とともに患者とくに高齢の患者間での感染伝播がある。これまで高齢者=既感染者と考えてきたが、近年では60歳でも7割の者が未感染であり、高齢者の初感染発病も否定できないこと、また高齢の入院患者の中には免疫抑制状態の者も少なくないことから外来性再感染による発病例も否定できない。

(3)不特定多数の人の出入りする場所での発生がめだつ()。これは結核リスク集団である健康管理の機会に恵まれない人々が少なからず利用する場所と見ることもできる。同時にこれは結核菌の遺伝子タイピングのような新しい技術と積極的な対策によって従来看過されていたケースが曝露されるようになったという面もある。

(4)多剤耐性菌による集団感染が報告されるようになった。イソニアジド(INH)の高度耐性菌は「毒力が弱い」などといわれ、慢性排菌患者に見られる多剤耐性結核菌なども希望的にそのようにいわれたこともある。しかし1980年代の終わりから米国で発生した多剤耐性菌による大規模な集団感染( 300人以上が巻き込まれた)は、その幻想を吹き飛ばした。日本でも後者の問題に関して、職場の同僚11人が多剤耐性結核の感染を受けて発病した例がある(1人死亡)。その後さらに、ある病院の結核患者(治療中、耐性はなし)が同室の多剤耐性結核患者A氏から感染を受けていったん治癒しかけた結核が悪化し(実は別の結核菌=多剤耐性菌による病気が新規に発病)、死亡するという事件が起きた。A氏はこの他にも結核治癒後まもない人に感染・発病させている。これらは紛れもない外来性再感染発病であるが、2人の発病者はともに糖尿病を持っていた。この事例は結核患者の入院治療の環境(病室管理)に関して重大な問題を提起している。上のような事例は、今後は中高齢の接触者、とくに健康上の問題を持った接触者への対応はこれまでよりもより積極的に行わなければならないことを示している。

(5)ツベルクリン反応検査で最近の感染が強く疑われる人が多数把握され、本来結核未感染であっても既感染とされ、そのために「集団感染」とされる事例のあることが否定できなかった。最近クォンティフェロン第2世代(QuantiFERON-TB®-2G)のような技術が実用化され、結核感染の診断がより正確に行われるようになったことにより、過剰な集団感染の報告が控えられるようになりつつある。

国立感染症研究所ハンセン病研究センター 森  亨

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