G群に凝集するStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の一例

(Vol.27 p 236-237:2006年9月号)

一般的に劇症型溶血性レンサ球菌感染症はA群に分類されるStreptococcus pyogenes によって発症することが多く、本菌により敗血症、壊死性筋膜炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)、ショック、多臓器不全などの全身感染症が励起され、症状は急速に進行し、死亡に至ることも多々ある。今回、G群血清に凝集するS. dysgalactiae subsp. equisimilis による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の死亡例に遭遇したので、その概要について簡単に報告する。

症例:81歳男性

既往歴:20歳 肺結核、50歳 不整脈、70歳 高血圧、拡張型心筋症、肺水腫、心房細動、糖尿病、80歳 脳梗塞(麻痺なし)、高脂血症、高尿酸血症、僧帽弁閉鎖不全症、結核性胸膜炎(疑); 抗結核薬を9カ月間内服

臨床経過:2006(平成18)年5月11日18:40、施設入所中の患者はベットサイドに倒れていたところを発見された。5月12日00:00、発熱(39.7℃)を認め、アセトアミノフェンシロップを内服。同日9:00頃、動脈血液中酸素飽和度(SpO2) が50〜60%へ低下し、右下腿部腫脹・末梢のチアノーゼ、傾眠傾向を認めたため、当病院に救急外来として来院した。来院時には発熱(37.9℃)を呈していたとともに、末梢循環不全の所見を認めたため敗血症性ショックを考慮にいれ、治療を開始した。胸部レントゲン検査にて両肺野に陰影像を認め、肺うっ血または肺炎が疑われた。5月13日、右下肢の腫脹・びらんは下肢から大腿部まで拡大。また、入院時(5月12日)の血液培養および右下肢浸出液よりG群S. dysgalactiae subsp. equisimilis が検出された。そのため、抗菌薬をアンピシリンとクリンダマイシンの併用投与とした。5月13日および14日にはエンドトキシン吸着療法を実施したところ、ショック症状は改善されていった。入院翌日(5月13日)の血液検査性状について表1に示す。CPK値は、5月13日に1,948U/ml、5月14日に最高値である2,204U/mlを示したが、その後は徐々に低下した。血小板数は5月16日には4,000/mm3まで低下し、フィブリン分解産物(fibrin degradation product ; FDP)の上昇を認めなかったが、DICスコアが7点となったため、蛋白分解酵素阻害剤(注射用メシル酸ガベキサート)および血小板輸血等を実施した。その後、ヘモグロビンの低下も認めたため赤血球製剤の投与を実施した。右下肢の状態は抗菌薬投与と局所包交にて対応し、一部皮膚の壊死を認めたが、徐々に浸出液も減少し、軽快傾向を認めた。5月21日頃より、右下肺野の陰影度が増し、27日には陰影が全肺野に拡大した。肺うっ血を考え利尿剤を投与したが、効果はなく、急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)に移行した。5月29日にはSpO2は80%台へ低下したため、好中球エラスターゼ阻害剤(注射用シベレスタットナトリウム水和物)および副腎皮質ホルモン剤(注射用コハク酸メチルプレドジゾロンナトリウム)を投与した。5月30日より、尿量が減少、肺野の改善は認められず、人工呼吸器による呼吸管理を開始した。5月27日採取の喀痰検査の結果、緑膿菌ならびに大腸菌が分離されたことから、抗菌薬をカルバペネム系であるパニペネム・ベタミプロン合剤に変更した。その後、若干の肺陰影像の改善を認めたものの呼吸状況は悪化、尿排泄量も低下し、6月6日に死去した。

多野藤岡医療事務市町村組合公立藤岡総合病院 内科 逸見大造
群馬県衛生環境研究所
高原力也 塩原正枝 池田美由紀 黒澤肇 森田幸雄 加藤政彦

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