新生児室におけるエコーウイルス18型の感染事例−愛知県

(Vol.27 p 231-232:2006年9月号)

エコーウイルス18型(E18)は、無菌性髄膜炎、麻痺、発疹症などの病因であり、わが国においては1988年、1998年に全国的な流行を起こしている。 2006年も西日本を中心に分離が報告がされていた1−3)が、愛知県内の特定一病院内新生児ICUにおいて集団感染が発生した。

患者は新生児ICU入院中の低出生体重児7名である()。2006年5月、相次いで無呼吸発作、哺乳力低下、発熱などの症状を呈したため、ウイルス分離用検体として糞便と咽頭ぬぐい液が採取された。検体をVero、HeLa、RD-18S細胞に接種後2週間、新たな細胞に再接種しさらに2週間観察した。分離株は、国立感染症研究所から分与されたエンテロウイルス用プール血清および単味血清を用いた中和反応により同定・型別された。

7名中5名(71%)からRD-18S細胞にエンテロウイルス様の変性効果をおこす因子が6株分離され、すべてE18と同定された。ウイルス分離陽性6検体中5検体は糞便であったが、1名(患者No.3)は咽頭ぬぐい液からもE18が分離された。ウイルス分離陽性児5名の検査材料は0〜3病日に採取されたが、一方陰性となった2名の検体は3〜4病日に採取されていた()。

7名の患者は、髄膜炎や重篤な脳脊髄炎症状を呈することなく全員速やかに回復し、経過中皮疹や粘膜疹は認められなかった。

一般にエコーウイルス(E)は不顕性感染が多く、発症しても良好な経過をとるが、E6、E11などの血清型には、抗体陰性の母から出生した新生児感染死亡例の報告もある。一方、E18は年少児には発疹症、年長児に無菌性髄膜炎を起こすウイルスとして知られており、E18の新生児感染は、年長児に比して軽症に経過する可能性が考えられた。

全例が比較的軽症に経過した理由として、患児がE18に対する抗体を保有していた可能性は否定できない。2004年に行った愛知県流行予測調査事業では、E18に対する年齢別血清抗体保有率は10〜19歳40%、20〜29歳50%、30〜39歳が27%であった。今回の新生児E18感染では患者および母の抗体調査はしていないが、発症1カ月以上前ではあるがガンマグロブリン投与歴のある患児2名のみがウイルス分離陰性であった点には、抗体の影響が考えられる。

愛知県では1988年、1998年、2003年にE18が流行し、無菌性髄膜炎が多発した。今夏は県内の検査定点からの検体からE18分離がまだない状況において、新生児集団発生が起こった。直近の流行(2003年)は前2回の流行と比べ小規模であったため、本年の患者増加が危惧される。

文 献
1)村瀬浩太郎等、IASR 27:153, 2006
2)吉田省三等、IASR 27:230, 2006
3)岩切 章等、IASR 27:230, 2006

豊橋市民病院小児科 幸脇正典 小山典久
愛知県衛生研究所微生物部
山下照夫 伊藤 雅 長谷川晶子 小林愼一 秦 眞美 田中正大 皆川洋子

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る