同時期にSalmonella WeltevredenおよびSalmonella Saintpaulが分離された食中毒2事例-岩手県

(Vol.27 p 237-239:2006年9月号)

2005年、岩手県において、ほぼ同時期にサルモネラ属菌による食中毒が2件発生した。1件は、ヒトからの分離頻度が比較的低い血清型であるS . WeltevredenとS . Saintpaulの2つの血清型株が同時に分離された事例(事例1)であり、ほかの1件はS . Saintpaulのみが分離された事例(事例2)であり、その概要について報告する。

事例1 S . WeltevredenとS . Saintpaulが分離された食中毒事例

事件の概要:2005年6月26日に、寺で行われた法事の席で提供された料理を食べた者が、6月26日〜28日にかけて下痢や腹痛等を発症し、5名が入院、11名が通院した事例である。保健所の調査の結果、患者は計39名、原因食品は法事で提供された飲食店の仕出し料理、また病因物質はサルモネラ属菌であると特定された(表1)。原因施設である飲食店は主に鰻を専門に扱っており、法事当日の仕出し料理の主な品目は、鰻蒲焼、折詰料理、刺身、寿司、そば椀等であった。

患者の発生状況等:患者の発生状況は図1のとおりである。初発患者は法事当日の26日23時で、27日〜28日にかけて発症がみられた。平均潜伏時間は30時間であった。患者39名の主な症状は、下痢(95%、1〜10回以上)、発熱(77%、37.3〜40.0℃)、腹痛(67%)、悪寒(56%)、嘔吐(33%)であった。

細菌検査結果:患者便6検体中4検体からサルモネラ属菌が分離され、血清型は3検体がS . Weltevreden、1検体がS . Saintpaulであった。調理従事者便および施設ふきとり検体からは菌が分離されなかった。食品は5品目中4品目から菌が分離され、血清型はすべてS . Weltevredenであった(表2)。

パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による解析パターン:患者3名および食品4品目から分離されたS . Weltevredenは、すべて同一パターンであった(図3)。

薬剤感受性試験(KB法):12薬剤(ABPC、CTX、KM、GM、SM、TC、CP、CPFX、SA、NA、FOM、ST)について試験した結果、S . Weltevreden はSAに耐性を、S . SaintpaulはNAに耐性をそれぞれ示したが、ほかの薬剤に対してはすべて感受性であった。

事例2 S .Saintpaulが分離された食中毒事例

事件の概要:2005年6月26日に、自宅で行われた法事で提供された料理により、19名が6月27日〜29日にかけて下痢、発熱を主徴として発症した事例であり、調査の結果、病因物質はサルモネラ属菌と特定された。提供された料理は、飲食店(事例1の飲食店とは異なる)の仕出し料理と法事参加者の持込料理であったが、原因食品は特定されなかった(表1)。

患者の発生状況等:患者の発生状況は図2のとおりである。初発患者は27日8時であり、患者発生のピークは28日午前であった。平均潜伏時間は45時間であった。患者19名の主な症状は、下痢(100%、1〜10回)、発熱(63%、37.1〜39.4℃)、腹痛(42%)、嘔気(26%)であった。

細菌検査結果:患者便8検体中6検体からサルモネラ属菌が分離され、血清型はすべてS . Saintpaulであった。調理従事者便5検体および施設ふきとり15検体からは菌が分離されなかった(表3)。

PFGEによる解析パターン:患者6名から分離されたS . SaintpaulのPFGEパターンはすべて同一であった(図3)。事例1と事例2のS . SaintpaulのPFGEパターンは異なっていた。

薬剤感受性試験:患者から分離された6株のS . Saintpaulは、使用した薬剤すべてに感受性であった。

考察:今回、本県で同時期に離れた場所で2件のサルモネラ属菌食中毒事件が発生し、両事件から同じ血清型であるS . Saintpaulが分離された。当初は、原因食品が共通である散在的広域発生(Diffuse outbreak)が疑われたが、両分離株はPFGEパターンと薬剤感受性が異なることから同一クローン由来株でないことが判明し、異なる別々の原因食品による発生であると推定された。

事例1は、患者からS . SaintpaulのほかにS . Weltevredenの血清型株も分離された。原因食品の一部(折詰料理)が患者の自宅冷蔵庫に保管されており、複数の品目(鮭のオーブン焼き等)からS . Weltevredenのみが分離された。原因施設である飲食店は主に鰻を専門に取り扱っている施設であり、事件当日に提供された鰻蒲焼は残品がなく検査できなかったが、保健所の聞き取り調査で、鰻の焼き台で鮭のオーブン焼きなどの調理をしていることが判明し、調理工程で鰻由来の菌が他の食品を汚染させた可能性があることも十分に考えられた。

事例1で分離された血清型のS . Weltevredenはわが国では分離株数が少なく、集団食中毒事例の報告もまれであり、1994年に栃木県で1例、1999年に沖縄県(IASR 21: 164, 2000)で1例報告されている程度である。栃木県の事例での原因食品は、旅館で提供されたイカ刺身であり、沖縄県の事例でのそれは、家庭で密殺された山羊肉であった。

今後、食中毒予防の観点から、S . Weltevredenのような分離頻度の低いサルモネラ属菌についても、市販食品の汚染状況を把握し、さらには飲食店営業者等に対する十分な知識の普及啓発が必要であると考える。

岩手県環境保健研究センター
保健科学部 藤井伸一郎 松舘宏樹 高橋雅輝 高橋朱実 岩渕香織 蛇口哲夫
検査部   佐藤徳行 太田美香子 後藤 徹 田頭 滋 山本哲男
盛岡保健所衛生課 赤沼柳子 高橋憲雄
花巻保健所保健衛生課 松山正憲 上神田富久

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