飲食店の弁当を原因とするSalmonella Enteritidisによる食中毒事例−京都市

(Vol.27 p 198-199:2006年8月号)

概要:2005(平成17)年11月16日午前、市内の事業所から「14日にA飲食店から事業所に配達してもらった弁当を食べた約10名が下痢、発熱等の症状を呈している。」との届出があった。所轄保健所が調査した結果、同14日にA飲食店が配達した弁当を食べた8事業所30名が、下痢、腹痛、発熱等の食中毒症状を訴えていることが判明した。

症状および発症状況:患者は、14日午後5時を初発として15日夜までに30名が発症した。当該弁当の喫食者数は37名であった。症状は、下痢、発熱が主であり、他には悪寒、腹痛、倦怠感、頭痛、吐気等もみられた。平均潜伏期間は18時間で、最短は3時間前後であった。

検体および検査結果:有症者の便23検体、調理従事者の便1検体、調理従事者の手指ふきとり1検体、まな板等の施設のふきとり9検体について食中毒菌の検査を実施した。

当所に搬入された有症者の便の数検体については、SS培地等での塗抹検査と同時に、Multiplex PCRでのSalmonella 属菌、Campylobacter jejuni およびC. coli のスクリーニング検査を実施したところ、Salmonella 属菌に特異的な増幅産物を認めた(図1)。さらに、培地での培養の結果、有症者の便21検体からSalmonella Enteritidis(S. E)を検出した。調理従事者の便、手指ふきとりおよび施設のふきとりからは、食中毒菌は検出されなかった。

検出したS. Eのパルスフィールド・ゲル電気泳動の結果は、すべて同じであった(図2)。また、国立感染症研究所に依頼した菌株のファージ型別の結果は、PT14bであったが、今回は生化学的性状のリジン脱炭酸酵素試験に陽性であった。薬剤感受性テストでは、薬剤耐性菌はみられなかった。

考察:調理従事者便やふきとり検体からは、食中毒菌は検出されなかったが、有症者30名中21名よりS. Eを検出したこと、有症者の共通食事が14日にA飲食店が配達した弁当のみであること、および有症者の発症状況が類似していることから、A飲食店が提供した食事を原因とする食中毒と断定し、3日間の営業停止とした。

検食等の保存がされておらず、検食等の食中毒菌の検査はできなかったが、疫学的調査から、提供メニューのうち、「かに玉」、「揚げギョウザ」および「こんにゃく」が原因食品に挙げられた。また、食中毒の原因菌がS. Eであることから、鶏卵を使用した「かに玉」である可能性が高いと考えられた。さらに、調理従事者からの聞き取り調査で、「こんにゃく」および「揚げギョウザ」は十分加熱されていたのに対し、「かに玉」は十分に加熱されず、半熟状に調理されていたこともわかった。これらのことを総合的に考えて、原因食品を「かに玉」と推定した。

また、このA飲食店では仕入れた鶏卵を常温で保存していたこともあり、保存中に菌数が増え、今回の食中毒発生の一因になったと推測される。

京都市衛生公害研究所
改田千恵 木上喜博 吉岡政純 杉山善朗 山野親逸

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