The Topic of This Month Vol.27 No.7(No.317)

カンピロバクター腸炎 1999〜2005

(Vol.27 p 167-168:2006年7月号)

カンピロバクター腸炎の起因菌は主にCampylobacter jejuni であるが、まれにC. coli も報告されている。わが国におけるカンピロバクター腸炎の発生状況は、(1)食品衛生法に基づくカンピロバクター食中毒の発生届出(厚生労働省食品安全部監視安全課「食中毒統計」)、(2)主として集団発生の食中毒患者を対象として実施した病原体検査結果である地方衛生研究所(地研)・保健所でのカンピロバクター検出報告(病原微生物検出情報)、(3)都市立感染症指定医療機関(13都市16病院)に入院したカンピロバクター腸炎患者についての個票報告(感染性腸炎研究会)により、それぞれ独立に集計されている。また、衛生微生物技術協議会レファレンス委員会では、全国の6支部および東京にカンピロバクター・レファレンスセンターを設けて分離されたカンピロバクター菌株を収集し、血清型別と薬剤感受性試験を実施している。

本特集はこれらの資料をもとに最近7年間の全国の状況について述べる(1998年までの発生状況はIASR 14: 143-144, 1993および20: 107-108, 1999を参照)。

食中毒統計:病因物質別食中毒事件数をみると、1997〜1999年まではカンピロバクターはサルモネラと腸炎ビブリオに次いで多かった。2000年以降はサルモネラと腸炎ビブリオが大きく減少したのに対し、カンピロバクターは減少がみられず(本号3ページ参照)、2003年までは400件台であったが、2004年558件、2005年645件と増加している(図1)。食中毒患者数では1999〜2001年まで約1,800人程度であったが、2002年以降2,000人を超え、2005年には3,439人に増加し(図1)、ノロウイルスに次ぎサルモネラとほぼ同数であった(本号3ページ参照)。カンピロバクター食中毒事件数の70%以上を1人事例が占めているが(図1)、1997年以降、一部自治体で患者数1人の食中毒事例も届け出るようになったことが影響している。

地研・保健所集計:1999〜2005年の年別カンピロバクター検出報告数を表1に示した。上記の食中毒統計で患者数が増加傾向にあるのと同様に、菌の検出報告も2003年以降増加して1,200前後で推移している。1999〜2005年の検出報告のうち、ほとんどが菌種まで種別されており、C. jejuni が97%を占め、C. coli は非常に少なかった。また、輸入例も非常に少ない。この傾向は1986年以降変わっていない(IASR 20: 107-108, 1999参照)。1999〜2005年の月別カンピロバクター検出報告数をみると(図2)、1998年以前と同様4〜7月にピークがみられた。

1999〜2005年に地研・保健所から報告されたカンピロバクター食中毒集団発生は350件であった。そのうちC. coli による集団発生は10件であった(表2)。カンピロバクター食中毒の特徴として、夏季にピークのみられるサルモネラや腸炎ビブリオによる食中毒よりも早く5〜7月にピークがみられ、サルモネラや腸炎ビブリオによる食中毒の発生が少ない冬季にも発生している(表2)。発生規模別では、患者数100人以上が5件、50〜99人が17件、10〜49人が165件、2〜9人が146件であった。原因食品の判明した事件は350件中182件で、その内訳は肉類が最も多かった。原因となる肉類の大半は鶏肉およびその内臓であるが、牛レバーなど、その他の動物の内臓の生食によるものもみられる[平成17年2月9日食安監発第0209001号厚生労働省食品安全部監視安全課通知「牛レバーによるカンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/campylo/index.html参照]。1996年に検食の保存期間が2週間に延長されたが(平成8年7月25日衛食第 201号厚生省生活衛生局長通知)、本菌による急性胃腸炎の発症までの潜伏期間が2〜7日とやや長いこと、冷凍により菌が損傷を受けることから、検食の食品検体から本菌を分離できないことは多い。

1999〜2005年に地研・保健所から報告された食品検査結果(表3)では、鶏肉の32%、その他の食肉の38%からC. jejuni/coli が分離され、カンピロバクター腸炎は本菌に汚染された肉類に起因することを裏付けている。

感染性腸炎研究会:都市立感染症指定医療機関に2001〜2005年にカンピロバクター腸炎で入院した患者397例の年齢分布をみると(表4)、前回の報告とほぼ同様に、0〜9歳が28%、10〜19歳が25%、20〜29歳が29%と多く、30歳以上は少なかった。また、20〜29歳では、その28%が海外で感染した輸入例であった。性別では男性の方がやや多かった。

分離菌株の血清型別と薬剤感受性(本号7ページ参照):カンピロバクター・レファレンスセンターは、LiorシステムによるC. jejuni の血清型別を行っている。1998〜2004年に散発下痢症由来C. jejuni 4,596株が型別に供された。2,930株が単独血清型に型別され、LIO4型が743株と最も多く、次いでLIO7型が308株であった。

1998〜2004年の散発事例由来C. jejuni の薬剤感受性は、テトラサイクリン耐性株の割合は30〜40%、ナリジクス酸およびニューキノロン剤に対する耐性率は30〜40%であった。一方、エリスロマイシン耐性率は1〜3%と非常に少なかった。

最近、カンピロバクター腸炎後に神経疾患のギランバレー症候群を発症した症例報告がある(IASR 20: 111-112, 1999および本号9ページ参照)。

カンピロバクター腸炎は本菌に汚染された肉類に起因することが多い。一方、調理過程における二次汚染に起因する事件も報告されていることから(本号5ページ6ページ参照)、カンピロバクター腸炎予防の一般的注意点として、肉類の生食を避け、十分な加熱調理を行い、まな板等の調理器具や調理人の手指を介した他の食品(特に生野菜など加熱せずに摂取する食品)への二次汚染に気を付けることが必要である。

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