学校の調理実習で発生したCampylobacter jejuni による集団食中毒の原因解析−千葉県

(Vol.27 p 171-172:2006年7月号)

厚生労働省「食中毒・食品監視関連情報」によると、原因菌別食中毒発生件数は2001年以後カンピロバクターによるものが最も多く、2005年は細菌性食中毒全体の62%に達した。今後さらに増加することが懸念され、感染予防・防止対策は急務であると思われる。昨年、千葉県内の高校で発生したカンピロバクターによる集団食中毒事例を解析したところ、食品の二次汚染が最大の原因であり、二次汚染を予防すればカンピロバクター食中毒の多くを予防できることが推定されたので報告する。

事例の概要

2005(平成17)年5月30日に県内医療機関より、A高校の生徒1人から病原大腸菌O1が検出され、他にも同高校の生徒複数が食中毒症状を呈しているとの情報が管轄保健所にあった。後に、この大腸菌はVero毒素陰性であることが判明したが、関連調査の結果、5月中旬〜下旬にかけA高校の3年生を中心に下痢、腹痛、発熱等食中毒症状の者および咳、喉の痛み、関節痛、発熱等風邪様症状の者が多数いることが分かった。3年生5クラスは、5月中旬にクラスごとに調理実習を行っていた。食中毒症状の者は3クラスに集中し、有症者27人の検便で11人からCampylobacter jejuni が検出されたことから、調理実習に使用した食品を原因とする食中毒と断定された。集団発生の原因を探るため発症状況および分離菌の解析を行った。

食中毒の原因解析

1.発症状況図1に5月中旬〜下旬にかけての、3年生5クラスの発症状況を示した。症状は下痢、腹痛、発熱等の食中毒症状、咳、喉の痛み、発熱等の風邪様症状およびいずれとも断定できない中間型に分類した。食中毒症状の者は5月中旬のA、BおよびEクラスに集中しているが、5月下旬にも各クラスに発症者がいた。風邪様症状の者は5月下旬に集中し、各クラスの発生状況に顕著な差は無かった。このような状況から、当初は、単一曝露型の食中毒とは疑われなかった。その後、有症者の検便で一部の人からC. jejuni が分離された。3年生5クラスは5月中旬の異なった日に、クラスごとに調理実習を実施していたことから、カンピロバクターによる腸炎の潜伏期間(通常2〜7日)を考慮し、各クラスの調理実習日から7日以内に限定して食中毒症状の発生状況を調べた(図2)。A、BおよびEクラスの発症は、調理実習日(推定喫食日)から2〜3日後をピークとするカンピロバクター食中毒の典型的なパターンを示した。調理実習を最初に実施したDクラスと最後に実施したCクラスには集団発生がなかった。これらのことから、3年生の一部で調理実習に伴うカンピロバクターによる集団食中毒が発生したこと、この他に腸炎症状を伴う風邪の流行があり、全体の発症状況を複雑にしたことが考えられた。

2.分離菌の解析:検便は5月30日に腸炎症状のあった27人にのみ実施された。A、BおよびEクラスの計10人からC. jejuni が、Aクラスの1人からC. jejuni およびC. coli が分離された。C. jejuni 11株の血清型はPennerの分類による抗血清のいずれにも凝集せず、型不明であった。

C. jejuni 11株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、制限酵素Ksp IおよびSma Iによる切断パターンは3種類(I〜III型)に分類された。クラス別では、実習日が最も早いAクラスの患者由来2株はI型であったが、次の実習日のBクラス由来株はI型2株およびII型2株、さらに次のEクラス由来株はI型3株、II型1株およびIII型1株であった(表1)。I型は3クラスに共通であることから、3クラスの患者発生は共通の原因食品による集団食中毒であること、また原因食品のC. jejuni 汚染は徐々に複数株に広がったことが推定された。

3.食中毒発生原因の解析:調理実習のメニューは五目鶏ご飯、白身魚の澄まし汁、キャベツのごま酢和えで全クラスに共通で、食材は同一業者より各実習当日に納入された。本事例の原因食品は特定できなかったが、C. jejuni による食中毒の感染源は鶏肉が最も頻度が高いことから、五目鶏ご飯に使用された鶏肉が原因と推定される。5クラスで使用された鶏肉は同一業者から納入されたので、同一養鶏場のニワトリあるいは同一の食肉処理場由来と考えられる。これらの場所でのC. jejuni 汚染が徐々に広がったために、実習日を追うに従って分離される菌株種が増加した(表1)と思われる。

調理実習は4〜5人の班に分かれ、各班ごとに異なる調理台で調理し、班ごとに喫食した。図3は班別の発症状況である。いずれのクラスにおいても班によって発症率に差があり、発症者無しの班と全員が発症した班があった。このことは、班によって喫食した食品のカンピロバクター汚染度が異なっていたことを示唆している。しかし、元の鶏肉は同じであり、五目鶏ご飯は電気釜で炊いたことから、鶏肉自体の加熱具合が班によって異なったとは考え難い。調理器具の扱いが不適当であったり、手指の洗浄が不十分であった班は、生食する野菜や調理済みの食品が鶏肉由来のカンピロバクターで二次汚染され、食中毒に至ったと考えられる。

最近の我々の調査では、市販鶏肉のカンピロバクター汚染率は80%以上(未発表データ)であり、鶏肉はカンピロバクターがいることを前提に扱うべきであると思われる。カンピロバクターによる食中毒の要因の一つは食品の加熱不足であるが、本事例の解析結果は二次汚染が重要な要因の一つであり、食品の取り扱いが正しければ二次汚染は避けられることを示している。カンピロバクターによる食中毒の防止方法は、これまでにも種々の形で社会に周知されてきたが、食中毒件数は減少せず、特に飲食店での生鶏肉の喫食や学校の調理実習、野外活動等に伴う食中毒事例が後を絶たない。今後、食品取り扱い従事者のみならず、学校の調理実習指導者や子供を含む一般人にカンピロバクター食中毒の原因や予防方法の周知を徹底する必要があると思われる。

千葉県衛生研究所 依田清江 内村眞佐子

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