食品調理時の二次汚染が原因と推定されたノロウイルス食中毒2事例−千葉市

(Vol.27 p 156-157:2006年6月号)

2005/06シーズンに千葉市内の施設を原因とするノロウイルス(NV)食中毒のうち原因食品が特定された事例は3件であり、うち1件はシジミ醤油漬を原因食品とするものであった。残りの2件は、老人ホーム(事例1)、および仕出し屋(事例2)を原因施設とするNV食中毒事例であり、これら2事例は患者、調理従事者、および食品から遺伝子的に同一のノロウイルスが検出されたことから、調理従事者による食品(二枚貝以外)の二次汚染が原因と推定されたのでその概要を報告する。

事例1:2005年11月26日13時頃、市内の特別養護老人ホームから千葉市保健所に「入所者のうちの約40名が嘔吐等の食中毒様症状を呈している」旨の連絡があった。疫学調査の結果、発症者は58名(入所者51名、職員7名)であり、症状は嘔吐、発熱、下痢を主体とするものであった。原因食品として当該老人ホームの給食施設で調理、提供された食事の関与が示唆された。

環境保健研究所において、電子顕微鏡法によるウイルス学的検査を発症者便について実施したところ、発症者便10検体中6検体からSRSVが検出された。RT-PCR(プライマーとしてCOG1F/G1SKR、およびCOG2F/G2SKRの2系統を使用)、またはリアルタイムPCRによるNV遺伝子の検出を行った結果、発症者便31検体中26検体、発症者吐物5検体中4検体、および調理従事者便6検体中1検体からNV genogroup (G)II遺伝子が検出された。一方、11月23日昼食〜25日朝食までの検食32検体については、リアルタイムPCRを実施した。その結果、11月23日昼食のメニューである「かやく御飯のおかゆ」の1検体からNV GII遺伝子が検出され、NV遺伝子のコピー数は3,460コピー/gであった。このことから、当該食品中には発症させ得る十分量のNVが含まれていたものと考えられた。さらに、この検食については、RT-PCRを行った後、G2SKF/G2SKRプライマーを用いたNested PCRを実施し、増幅産物を確認した。

PCR産物の塩基配列(キャプシド領域253bp)を解析したところ、発症者、調理従事者、および食品から検出されたNV遺伝子の配列は一致し、遺伝子型はGII/12であることが明らかとなった。

11月23日昼食のメニューは、かやく御飯、かやく御飯のおかゆ、鯖味噌煮、南瓜・いんげん煮物、白菜漬、および小松菜油揚げ味噌汁の6品目から構成されていた。これら食品の調理行程には、加熱調理が入り、NVに汚染される可能性は低いと考えられたが、「かやく御飯」、および「かやく御飯のおかゆ」の調理工程は、「御飯」と「おかゆ」を別々に加熱調理した後、あらかじめ調理した共通の具材をそれぞれに混ぜ合わせるものであった。さらに、具材の調理はNVが検出された調理従事者が行っており、11月23日の昼食を喫食していなかった。NVが検出された食品は「かやく御飯のおかゆ」のみであったが、具材が当該調理従事者によってNVに汚染され、その具材がさらに「御飯」と「おかゆ」を汚染したことが調理工程の調査結果から推定された。

事例2:2006年1月26日12時30分頃、市内医療機関の医師から千葉市保健所に「数名の病院職員が下痢、嘔吐等の食中毒様症状を呈しており、食中毒の疑いがある」旨の通報があった。病院職員に対する聞き取り調査等を行ったところ、発症者に共通する食事は市内の仕出し屋が調理、提供した弁当のみであることが明らかとなった。弁当は昼食として約70の事業所等に配送されており、1月23日〜25日の間に弁当を喫食した403名のうち158名が下痢、腹痛、吐気、および発熱を主体とする症状を呈していたことから、当該仕出屋が調理、提供した弁当が原因食品として疑われた。

保健所が採取した糞便検体について事例1と同様にNVの遺伝子検査を行ったところ、喫食者便40検体中22検体、調理従事者便8検体中5検体からNV GII遺伝子が検出された。また、1月23日〜25日の弁当(検食)51検体についてリアルタイムPCRを行ったところ、NV遺伝子は検出されなかった。しかしながら、喫食状況等の調査結果から24日の弁当が原因食品として強く示唆されたことから、24日の検食8検体についてRT-PCR、およびNested PCRを実施した結果、「人参炒め」、および「漬物」の2検体からNV GII遺伝子が検出された。

事例1と同様に遺伝子解析を行ったところ、喫食者、調理従事者、および人参炒めから検出されたNV遺伝子の配列は一致し、遺伝子型はGII/4であることが明らかとなった。一方、漬物から検出されたNVの遺伝子型はGII/2であり、喫食者、および調理従事者から検出された遺伝子型と異なっていた。以上の結果から、原因食品は24日に仕出し屋が調理、提供した「人参炒め」と特定された。

本事例では、調理従事者8名中5名からNV GII遺伝子が検出され、うち4名が24日の弁当を喫食していた。残り1名は非喫食者であったが、発症日が27日であったことから、調理従事者間における二次感染が推測された。このことは、調理従事者により24日弁当の「人参炒め」がNVに汚染される可能性が高かったことを示唆している。一方、「漬物」から喫食者、および調理従事者と異なる遺伝子型のNVが検出されたが、その調理工程は市販品を盛り付けるのみであったことから、盛り付け時の汚染によるものと推定された。

今回の食中毒2事例から、原因食品の特定(絞り込み)には、疫学調査結果、NVの特性、およびNV遺伝子の解析結果を踏まえた総合的な検討が極めて重要であることを再認識した。

千葉市環境保健研究所医科学課
横井 一 田中俊光 秋元 徹 三井良雄 小笠原義博 池上 宏
千葉市保健所食品衛生課
坂本美砂子 大竹正芳 高橋智子 早川克実 澤口邦裕 本橋 忠 岡本 明

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