集団感染2事例を含む腸管出血性大腸菌O157の発生状況−富山県

(Vol.27 p 144-145:2006年6月号)

2005年の富山県における腸管出血性大腸菌感染症患者は78名であり、このうちO157による感染例は74例であった。この74例のうち、集団感染事例(家族内感染事例も含む)は8事例(63名)であり、散発事例は11事例(11名)であった。このうち2つの集団発生事例について報告する。

事例1:2005年3月23日に3名のグループがA飲食店を利用した。うち1名が26日より、腹痛、下痢(血便)、発熱などの症状を呈し、医療機関を受診した。検便よりO157:H7(VT1&2)が検出されたため、31日にO157感染症発生届が提出された。また、同グループの1名からもO157:H7が検出された。その後の疫学、検便調査の結果、同23日にA飲食店を利用した別グループのうち1名からO157:H7が検出された。

さらに3月26日に同A飲食店を利用した16名のグループのうち、1名が腹痛、下痢(血便)などの症状を呈し、医療機関を受診した。検便よりO157:H7が検出されたため、4月1日にO157感染症発生届が提出された。疫学、検便調査を行った結果、同グループの11名のO157感染が確認された。

これらのグループの感染者14名から分離されたO157:H7菌株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子の解析を行った結果、感染者14名のO157:H7菌株はすべて同一であり、同一クローンであることが判明した(図1)。

喫食調査から3グループの共通食はレバー刺であることが判明した。レバー刺を喫食した15名のうちO157感染者が13名、非喫食者4名のうちO157感染者が1名であった。

以上の疫学調査の結果から、今回の食中毒はO157により汚染された牛レバーの喫食または二次汚染された食品の喫食による感染と推測された。牛レバーについて残品のレバーが残っていなかったため、調査できなかった。しかし、この牛レバーは生食用加工のものではないことが確認された。

事例2:2005年9月5日に医療機関より5歳園児1名のO157:H7(VT2)による感染症発生届が提出された。患児の通うB保育所関係者(園児、職員)について疫学、検便調査を実施した結果、園児17名からO157:H7が検出された。初発の5歳患児以外の17名はすべて0歳〜3歳児であり、全園児年齢構成からすると偏った発生であった(表1)。さらに家族内二次感染によるO157感染者が4名判明した。これら患者22名から分離されたO157:H7菌株について、PFGEによる解析を行った結果、菌株はすべて同一クローンであることが判明した。

患児18名のうち有症者は12名で、発症時期は8月下旬〜9月初旬に分散していた(図2)。また、B保育所から提供された給食からO157は検出されなかった。このような疫学調査の結果から、食事等を介した単一曝露による集団発生とは考えにくく、感染源の特定はできなかった。しかし、0歳〜3歳の乳幼児を中心に感染が拡大した原因としては、乳幼児が指しゃぶりや玩具などをなめるといった行為を頻繁に行うこと、オムツを使用していること、または手洗い等の自発的な排便後衛生管理が難しいこと等が考えられる。また、同保育所では3歳未満児に関してビニールプール(殺菌剤入り)やベビーバス(瞬間湯沸しの温水使用)等を使用しており、この際、下痢等の症状が認められる園児にもプール遊び等をさせていたことが乳幼児を中心に感染が拡大した要因であると考えられた。

富山県衛生研究所細菌部 木全恵子 磯部順子 綿引正則 倉田 毅
新川厚生センター 尾崎博子 大江 浩
富山市保健所 松下敏昭 横山浩二

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