麻疹・風疹の定期予防接種制度改正に伴う定期接種の実施に関する全国市町村および特別区への実態調査

(Vol.27 p 101-102:2006年4月号)

本稿は、2006年4月1日からの麻疹・風疹定期予防接種の実施に関する制度改正(関係政省令公布は2005年7月)に伴い、全国の市町村および特別区(以下「自治体」と呼ぶ)の予防接種の実施状況および今後の予定についての現状把握を行うことを目的とした調査の要旨である。

2006年2月第1週に全国2,166の自治体の予防接種担当部局に、協力依頼と質問紙を郵送し、3月第1週の時点で1,277の自治体から回答を得た(回収率59%)。自治体区分は、35が政令指定都市または特別区、62が中核市または特例市、1,142がその他であった。

日本の属する世界保健機関西太平洋事務局の設定した「2012年までの麻疹排除(elimination)」の目標について知っていると回答した自治体は、72%であった。

2005年度時点で、麻疹・風疹の定期予防接種の際に自己負担金を徴収している自治体数は、それぞれ17(1.3%)、18(1.4%)であった。徴収金額は500〜1,500円の範囲であった。2006年度からの麻疹風疹混合ワクチンによる定期予防接種実施の際の自己負担金の徴収予定に関しては、「徴収しない見込み」、「する見込み」の自治体が、それぞれ98%、1%であった。

制度改正に関する政省令公布後の、2005年8月〜12月までの間に行われた麻疹ワクチンの定期接種数を、2004年の同期間と比較した変化については、41%の自治体で増加(増加率の中央値15%)、15%で減少、30%で著変なし(変化が増減1%未満)であった。同様に、風疹ワクチンの定期予防接種数の変化では、50%の自治体で増加(増加率の中央値25%)、9%で減少、26%で著変なしであった。

厚生労働省は、「2006年度以降においても、生後12カ月〜24カ月未満の子どもで、麻疹・風疹のどちらかに既罹患または麻疹・風疹のどちらかの予防接種を既に済ませている者に対して麻疹または風疹の単抗原ワクチン接種をする際には、費用負担が定期予防接種と同等になるよう配慮する」ように依頼する通知を、各自治体に向けて発出している(2005年8月3日付)。これを受けて、「これらの接種を定期接種と同等の扱いとする」予定の自治体は82%、「定期と同等ではないが特別の配慮をする」予定の自治体は3%であった。これらの自治体のうち、「扱いまたは配慮の期間を限定している」自治体は47%、「していない」自治体は37%であった。

本調査の現時点での回収率は約60%(2006年4月時点での自治体数を基準にすると69%)と、同種の調査においては非常に高い回収率であることから、自治体においてもこの問題への関心が高いと思われる。またこのような自治体の情報を相互に共有する機会が少ないことがうかがえた。しかしながら、回収率は高いが、これは予防接種事業に比較的熱心な自治体が回答した可能性もあり、結果にはそれを反映したバイアスが含まれる可能性に留意する必要がある。ただし、このバイアスは定量的評価が困難であるので、これを考慮せずに結果を解釈すると以下のようになる。

2006年度に導入される麻疹風疹混合ワクチンの定期予防接種は、これまでの麻疹・風疹の予防接種と同様に、ほぼすべての自治体において自己負担なしで接種の実施ができる予定である。2005年12月時点で、半数以上の自治体で麻疹または風疹予防接種の接種者数の増加がみられていなかった。麻疹排除(elimination)を達成し、先天性風疹症候群の発生を予防するためには、感受性者の割合を少しでもより多く減少させることが望まれるために、個々の自治体が2006年3月末には接種率を評価し、必要ならば接種率を高める対策を行うことが求められる。ただし、約8割の自治体で、2006年度以降も一定の条件下で、麻疹・風疹の単抗原ワクチンの接種を定期接種と同等に扱うことを予定していることは望ましい。仮に未回答の自治体において定期接種と同等に扱うことが実施されなかったとしても、現在の回収率から考えると、過半数の自治体は実施することになる。より多くの自治体がこれらの措置を行われることを期待したい。

なお、本稿は速報であり、今後の詳細な検討により結果に多少の変化の可能性がある。最終的な結果は著者に問い合わせていただきたい。

謝辞:ご協力いただいた各自治体担当者に感謝する。また調査実施に際して厚生労働省血液対策課の支援を受けたことを感謝する。

本稿は、平成17年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業「麻疹・風疹の予防接種率とワクチンの需要に関する調査研究」(主任研究者:国立感染症研究所感染症情報センター長・岡部信彦)の研究の一環である。

国立感染症研究所感染症情報センター 田中政宏 菅原民枝 大日康史 岡部信彦

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