麻疹・風疹ワクチンの2回接種導入に伴う単味ワクチンの需要に及ぼす影響

(Vol.27 p 98-100:2006年4月号)

制度が大幅に変更される場合の人々の行動の変化は、その過去の行動パターンからは推測ができないために、需要の予測は非常に困難である。そのため予防接種政策では、ワクチン不足あるいは過剰在庫を抱える危険性がある。前者の場合には、大きな社会不安をもたらすし、後者の場合にはワクチンメーカーに負担を強いることになる。そこで、制度の変更に伴ってどの程度の予防接種率の向上が見込まれるのかについて把握する。

調査はできるだけ3月に近い時点で多くの情報を収集するためにインターネットを利用して、2006年2月下旬に全国において実施した。一般にこの年齢階層においてインターネット利用者が郵送等他の調査の対象者よりも特定の傾向を示すことはないとされている。実際に、2005年12月に実施した本研究のパイロット的な郵送調査での接種率や予防接種に対する態度は、今回の調査とほぼ同じであった1)。したがって、インターネットの調査による偏りは深刻ではないと推測される。いずれにしても常に、結果の解釈にあたっては点推定量ではなく信頼区間をもって判断すべきである。

標本抽出は、本研究の趣旨に照らして2006年3月時点で12カ月以上90カ月未満に限定し、特に母集団人口が24カ月以上90カ月未満よりも少ない12カ月以上24カ月未満を多くとるように偏った無作為抽出を行い、12カ月以上24カ月未満においても十分な標本が確保されるようにした。調査対象として調査会社と契約している全国25万世帯から、年齢階層別に層化した無作為抽出によって抽出された13,698世帯に調査を依頼した。このうち、 6,946世帯から回答を得た(回収率51%)。本分析の対象となる90カ月未満の小児は10,056名であった。解析はすべて、年齢階層別抽出率の逆数を乗じ、日本全体での推定人数で行う。なお、いずれか一方の疾患でのみ未接種、未罹患の場合、4月以降にも自治体が独自に補助を行う場合があることは調査の質問において情報提供されている。しかしながら回答者が居住している自治体で行われるかどうかは不明である。

2006年3月までの定期接種対象者である同月までに12カ月以上90カ月未満である者のうち、罹患もせず予防接種も受けていない者は、麻疹で685名6.8%、風疹で1,570名15.6%であった(表1)。このうち、麻疹で未罹患、未接種、風疹で罹患あるいは予防接種を受けた者の34.5%が3月中の接種を希望している(表2)。他方で4月以降の希望も29.0%に上る。受けない、未定は37.0%に達している。全国での推定該当者は35,223人である。風疹では、未罹患、未接種、麻疹で罹患あるいは予防接種を受けた者では、3月までの接種を希望している率は72.7%に上る。12カ月以上24カ月未満に対象を限定すると、3月までの接種希望は上昇し、麻疹では30.4%、風疹ではほぼ全員の96.8%に達する。麻疹では地域によっては経過措置が期待できる4月以降の接種希望も高く58.7%に上る。

麻疹、風疹の両方で未罹患、未接種である場合の対応を表3に示す。この場合、4月以降の接種希望が40.7%に増加し、3月までの接種希望は22.1%に低下する。他方で、就学時まで接種を延期するのは4.0%にすぎない。対象を24カ月未満に限定すると、4月以降が65.9%に増加、3月までが16.3%に低下する。24カ月以降は36カ月未満では3月までの接種希望率が43.6%に上昇する反面、36カ月以降であれば、就学時が11.0%に増える。

表4は少なくともいずれかで未罹患、未接種である場合の対応がまとめられている。この場合、3月までの接種を希望している率は麻疹で23.6%、風疹で53.2%である。推定該当者はそれぞれ7.0万人、35.8万人である。その95%信頼区間はそれぞれ[5.4, 8.6]、[32.7, 38.9]万人である。

本結果は2006年3月5日に厚生労働省医薬食品局血液対策課に報告された。また、この内容に基づき、2006(平成18)年3月16日付けで厚生労働省医政局経済課長・医薬食品局血液対策課長名で通知が出された(医政経発第0316001号、薬食血発第0316001号)。

このような科学的根拠に基づいて需要予測をすることは、ワクチンメーカーあるいは国、市区町村が準備するうえで不可欠となると示唆された。

謝辞:本稿は、平成17年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業「麻疹・風疹の予防接種率とワクチンの需要に関する調査研究」(主任研究者:国立感染症研究所感染症情報センター長・岡部信彦)の研究の一環である。

 文 献
1)大日康史・岡部信彦「麻疹・風疹の二回接種導入に伴う単味ワクチンの需要に及ぼす影響(第2報)」、平成17年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業「麻疹・風疹の予防接種率とワクチンの需要に関する調査研究」(主任研究者:国立感染症研究所感染症情報センター長・岡部信彦)報告書

国立感染症研究所感染症情報センター 大日康史 岡部信彦 多屋馨子

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