2000〜2005年の風疹および先天性風疹症候群の発生動向とその関連性

(Vol.27 p 94-96:2006年4月号)

1995年に風しんワクチン定期接種が女子中学生から男女幼児へと変更されてから、感染症発生動向調査への風疹の報告症例数は減少してきている。その一方、2004年には先天性風疹症候群(CRS)報告症例が10例と急増した。我々は、2000〜2005年にかけて、感染症発生動向調査に報告された風疹症例とCRS症例の発生動向とその関連を解析した。

1.風疹の発生動向

2000年第1週〜2005年第52週までに全国約3,000の小児科定点から感染症発生動向調査に報告された風疹症例について、報告内容に加え、自治体からの任意の提供情報、学会発表、論文等で公表されている情報も併せて解析した。2000〜2003年までは年間2,590〜3,120例の報告(2000年3,120例、2001年2,590例、2002年2,984例、2003年2,794例)であったが、2004年には4,247例と約1.5倍に急増した。ただし、第30週以降はむしろ2000〜2003年より2割強減少した。2005年は、年間889例(暫定値)の報告に留まった(本号1ページ図1参照)。2000〜2004年にかけて、報告症例の年齢分布は徐々に上昇し、2004年には10歳以上が全体の3割強を占めたが、2005年には、報告数の急な減少に併せて低年齢の小児の占める割合が増加した(本号2ページ表1参照)。

2.CRS発生動向

2000〜2003年まで、CRS報告は年1例で推移してきたが、2004年には10例、2005年には2例が報告された(表1)。性別は男5名、女11名であった。母親の予防接種歴は、なし5名、不明8名、あり3名(うち2名は母親の記憶)であった。母親の妊娠中の風疹発症は、あり10名、不明2名、なし4名であった。

3.風疹の地域流行とCRS発生の関連

母親が妊娠中に国外で風疹に感染したと報告された2005年の大阪府の症例を除外し、推定妊娠期間中(出生前40週間、母親の発病が明らかな場合は発症日まで)の風疹の地域流行とCRS 発生の関連を解析した。母親の推定妊娠期間における都道府県の週当たり風疹報告数のピーク値は、0.2以上の流行が確認されたのが4県(6例)、0.2未満の非常に小さな集積が確認されたのが3都府県(5例)、散発発生程度であったのが4県(4例)であった(表1)。さらに、2003〜2004年の定点当たり累積風疹症例数を算出し、2004年報告の10例の地理的分布と比較したところ、東京都、神奈川県、長野県、熊本県のCRS 6症例の地域では風疹報告は比較的少なかった(図1)。また、2000年第1週〜2005年第52週までの風疹発生動向と、CRS出生日、母親の風疹発症日(国内で感染、発症日が確認された8例)とを比較したところ、母親の罹患時期と、風疹発生動向(流行)には一定の関係は観察されなかった。母親のうち少なくとも4名が2003年に風疹に罹患しており、妊婦の風疹罹患に伴うCRS 発生のリスクは2003年以後には高かったと考えられた(図2)。

2000〜2005年の感染症発生動向調査報告を見る限り、都道府県単位の風疹流行の規模と、CRSの発生とには、明確な関連は認められない。母親の風疹罹患は2003年から増加しているが、風疹の発生動向では流行規模の増加は見られなかった。すなわち、現在の感染症発生動向調査による風疹の流行監視では、妊婦の風疹罹患に伴うCRS発生リスクの十分な評価は困難であると考えられる。おそらく、理由の一つが、風疹の発生動向調査が小児科定点のみの報告によっているため、成人症例が把握できていないことであろう。年長児〜若年成人の感受性者は年々増加しており、成人の風疹感染の増加が懸念される。妊婦の風疹感染のリスク評価には、成人における風疹の発生動向監視が必要であろう。また、妊娠中に風疹感染が確認された場合、不幸にも人工妊娠中絶に至るケースは少なくないと考えられる。妊娠中の母親の風疹罹患とそれによる胎児感染は、不顕性先天性風疹感染、風疹感染に伴う人工妊娠中絶、CRS(単一障害、複数障害)の総数として評価されるべきであるが、現在のCRS発生動向では、報告基準を満たす複数障害のCRS症例しか把握できない点も考慮する必要がある。今後、妊婦と胎児の風疹感染リスクを評価するためには、成人の発生動向が監視できるよう、サーベイランスの強化が必要であろう。現在の感染症発生動向調査では、地域の風疹流行を探知してから対策を行っても、十分にCRS発生を予防することは不可能である。風しんワクチンの第一の目的はCRS発生予防である。平時から予防接種率を高め、風疹流行そのものを遮断することが必要である。

 文 献
1)「風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究」班:風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言、http://idsc.nih.go.jp/disease/rubella/index.html
2)上野正浩ら, 第8回日本ワクチン学会学術集会プログラム抄録集,p62、2004
3)中島一敏ら,第9回日本ワクチン学会学術集会プログラム抄録集,p104,2005
4)厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症情報センター,平成15年度感染症流行予測調査事業報告書,http://idsc.nih.go.jp/yosoku/index.html
5)多屋馨子ら, IASR 24: 55-57, 2003
6)多田有希、岡部信彦,小児科 46(4): 497-505, 2005
7)小池香菜子ら, 第10回日本小児科学会学術集会プログラム抄録集,p279, 2005
8)渡部晋一ら, 第8回日本ワクチン学会学術集会プログラム抄録集,p61, 2004

国立感染症研究所感染感染症情報センター 中島一敏 多田有希 多屋馨子 岡部信彦

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