2004年度感染症流行予測調査事業による麻疹、風疹血清疫学調査からみた今後の麻疹、風疹対策

(Vol.27 p 92-94:2006年4月号)

2001年の麻疹全国流行、2004年の風疹地域流行以降、全国的な麻疹、風疹対策の強化により、両疾患とも2005年は過去20年間で最も患者報告数が少なく経過した。感染症流行予測調査事業は、厚生労働省が実施主体となり、担当都道府県、担当都道府県衛生研究所、国立感染症研究所が協力することにより実施されている事業で、麻疹、風疹に関しては、毎年概ね7〜9月に両疾患の抗体保有率と予防接種率を調査している。本事業から得られた結果は、全国の麻疹、風疹対策に用いられるとともに、海外にも報告されている。本稿では、2004年度本事業の結果から、麻疹、風疹について抜粋し、今後の麻疹、風疹対策について考察した。

1.麻疹に対する免疫保有状況(図11)

全国で3,991名の被験者から調査協力が得られ、協力都道府県でゼラチン粒子凝集(PA)抗体価が測定された。PA抗体価が1:16以上を示した場合、抗体陽性とした。PA抗体は赤血球凝集抑制(HI)抗体あるいは中和抗体より長期間高く維持される傾向があるといわれており、長期の感染防御効果、発症阻止効果に関しては今後さらに検討を進める必要があるが、本方法で陰性の場合は、感受性者であることが確実であること、1:128以上の抗体価を保有する場合、ほぼ100%で中和抗体を保有していることが報告されていることから、結果の判断に有用である。

1歳児の抗体保有率は、2003年度調査より12.7ポイント増加し74.6%になったものの、まだ国内から麻疹を排除(elimination)するには十分であるとはいえない。2歳児では92.3%まで上昇し、30代以上で99.5%となったが、定期接種対象年齢群(1〜7歳半)にも抗体陰性者(感受性者)が認められること、10代前半まで徐々に抗体価の低下が認められること、10代で3.5%、20代で2.6%の感受性者が認められること等は、今後の麻疹対策を考える上で重要である。

2.麻疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種状況

接種歴不明を除いた全体の麻疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種率は79.4%であり、2003年(79.3%)と同様の結果であった。しかし、年齢別にみると、1歳76.1%、2〜3歳92.9%、4〜6歳92.8%、7〜9歳93.6%となり、2003年の調査結果(1歳58.7%、2〜3歳83.6%、4〜6歳87.6%、7〜9歳87.4%)と比較すると、1歳以上群の接種率増加が認められた。また、ワクチン接種者の抗体保有率は98.6%で、免疫獲得は良好であった。

3.風疹に対する免疫保有状況(図21)

全国で女性2,483名、男性2,165名、合計4,648名の被験者から調査協力が得られ、協力都道府県で赤血球凝集抑制(HI)抗体価が測定された。HI抗体価が1:8以上を示した場合、抗体陽性とした。2004年の地域流行を受けて発足した風疹研究班(主任研究者:岡部信彦・国立感染症研究所、分担研究者:平原史樹・横浜市立大学医学部教授)から出された緊急提言では2)、HI抗体価が陰性、1:8 あるいは1:16の弱陽性者に対しては、風疹ワクチンの接種を勧奨している。

風疹HI抗体保有率は85.9%(女性90.2%、男性80.9%)で、2003年とほぼ同様の結果であった。20歳までの若年層では、男性が僅かに低いものの、男女間の抗体保有状況に大きな差が見られなくなってきた。一方、成人層では男女差が明確であり、20〜30代の女性では平均95.9%の高い抗体保有率であったが、男性では24歳から低下し始め、40歳までの平均値は73%と低かった。特に27〜28歳にかけて男性の抗体保有率は65.7〜53.3%と極めて低かった。

4.風疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種状況

接種歴不明を除いた全体の風疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種率は、女性が75.7%、男性が71.7%、男女平均74.0%であった。1〜19歳までの接種率に男女間の違いはほとんどなく、1〜4歳群74.8%、5〜9歳群91.6%、10〜14歳群86.1%、15〜19歳群78.0%となった。しかし20〜24歳女性、25〜29歳女性の接種率がそれぞれ68.9%、84.4%であるのに対し、20〜24歳男性、25〜29歳男性ではそれぞれ56.3%、41.9%と極めて低く、小児および成人においてワクチン接種による抗体保有率への効果は明白であった。

5.今後の麻疹・風疹対策

2001年以降に認められた全国的な麻疹ワクチンキャンペーンの効果により、現在、麻疹患者数は激減している。2005年9月、WHOは日本を含む西太平洋地域(WPRO)の麻疹排除(elimination)の目標を2012年と設定し、各国の麻疹対策強化を求めているが、国内でも現在の患者数減少に安心することなく、一層の麻疹対策が必要である。その理由として、麻疹の排除(elimination)を達成するためには、95%以上の麻疹ワクチン接種率が求められているが、2004年の1歳児予防接種率、抗体保有率は全国平均で70%台にとどまっていること、1歳以上40歳未満の年齢層にいまだ数%の麻疹感受性者が存在していることが挙げられる。

一方、風疹は2004年に年長児と成人層での患者数の増加を特徴とする地域流行を認め、1999年から毎年1例の発生だった先天性風疹症候群(CRS)が10例に増加したが、その後の対策により2005年は過去20年間で最も患者数が減少している。

今後、CRSの発生を防ぐためには、女性の抗体保有率を監視し、低下が認められた場合は、妊娠前の追加免疫が必要と思われた。また、風疹の問題点として、24〜40歳男性に感受性者が蓄積していること、1〜4歳の予防接種率が75%と低値であることが挙げられる。

2006年4月1日から小児の定期予防接種スケジュールは大きく変更された。麻疹風疹混合生(MR)ワクチンの導入、開始の時期は明確に示されていないが、MRワクチン2回接種導入である。MRワクチンの定期接種対象が現在の1〜7歳半未満から、麻疹、風疹いずれにも未罹患で、麻疹ワクチン、風疹ワクチンいずれも未接種の1歳児と小学校入学前1年間(5歳以上7歳未満)の小児に変更になることから、予防接種率、抗体保有率の低い地域においては、麻疹、風疹対策を一層強化し、再び麻疹、風疹の流行が起こらないよう、十分な注意が必要である。麻疹ワクチン、風疹ワクチン未接種者は、2006年3月31日までの間に、定期接種として受けておくよう、一層の接種勧奨が望まれていた。特に風疹においては、麻疹ワクチンのように1歳になったらすぐの予防接種が実施されていないため、2006年3月31日までの間に風疹ワクチンを受けないと、2〜4歳が感受性者として残されることになる。風疹にとって最も重要なCRS 発生予防には、小児への高い予防接種率を維持して流行を抑制することに加えて、妊娠を予定している女性が抗体を保有することが重要である。

今後は、麻疹、風疹ともに、これまでの予防接種プログラムの変遷を念頭においた、注意深い抗体保有状況および予防接種状況の監視が益々重要である。

2004年度感染症流行予測調査事業麻疹、風疹感受性調査担当県および担当衛生研究所:北海道、宮城県、秋田県、山形県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、山梨県、新潟県、長野県、三重県、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、宮崎県、沖縄県

 文 献
1)厚生労働省健康局結核感染症課,国立感染症研究所感染症情報センター, 2004年度感染症流行予測調査報告書, 2006年3月
2)風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究(班長:平原史樹・横浜市立大学大学院医学研究科教授)班:風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言, 2004年8月

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子 佐藤 弘 岡部信彦
国立感染症研究所ウイルス第三部 海野幸子 田代眞人

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