マンニット非分解性黄色ブドウ球菌による食中毒の一事例−福島県

(Vol.27 p 72-73:2006年3月号)

はじめに:黄色ブドウ球菌による食中毒は珍しい事例ではないが、今回、マンニット非分解性の黄色ブドウ球菌による事例を経験したので報告する。

概要:2005年8月4日に福島県会津保健所管内で行われた祭り打ちあげ会に参加した者のうち約20名が、23時〜24時にかけて吐き気、嘔吐、下痢、腹痛の食中毒様症状を呈した。参加者の共通食は、A社施設で製造・調理された食品であり、A社流通センターで製造・包装されたおにぎり(梅・昆布)にA社B店舗で調理した唐揚げ(冷凍食品を揚げるのみ)を詰め合わせた「おにぎりセット」と、A社B店舗で調理(冷凍食品を揚げるのみ)された「オードブル」であった。おにぎりは11時30分頃B店舗に搬入され、室温に放置された。その後、唐揚げを14時〜15時に詰め合わせ、再び室温放置し、16時30分頃「オードブル」と一緒に納品した。納品後も祭り事務局において室温に放置され、17時〜22時にかけて喫食された。また、A社他店舗で販売されたおにぎりを喫食し発症した祭り関係者以外の者も8名おり、発症者は祭り関係者27名、および店舗購入者8名、合わせて35名となった。

原因食品は疫学調査の結果、「おにぎりセット」に限定された。さらに、おにぎりセットに含まれる唐揚げは、B店舗で調理され当日店頭販売されていたが、同様の苦情がなかったことから、A社流通センターで製造・包装されたおにぎり(梅・昆布)が強く疑われた。

検査結果:病原菌検査は食品残品3件、調理従事者手指・調理用具等ふきとり液12件、発症者便6件、調理従事者便5件を福島県衛生研究所会津支所(以下、当所)で、発症者便1件を新潟市衛生試験所で、発症者便1件を新潟県保健環境科学研究所で行った。当所で7株、新潟市衛生試験所で2株の黄色ブドウ球菌が分離された。

これら9株の黄色ブドウ球菌の性状をに示す。コアグラーゼIV型、エンテロトキシンA型の菌株が、原因食品として疑わしいおにぎり梅・昆布、従業員手指ふきとり液および、発症者便からも分離されたことから、この菌株を原因菌とした。当所の検査結果では、原因となった黄色ブドウ球菌が、おにぎり梅・昆布から 1.1×109 /g、 6.6×109 /g、流通センター従業員手指ふきとり液から 5.1×104 /ml検出された。この菌は純培養的に発育しており、分離培地(エッグヨーク培地)の性状で卵黄反応は見られたが、マンニット非分解性であった。コロニーの黄色色素も薄く、黄色ブドウ球菌の典型的な性状を示していなかった。新潟市衛生試験所で検査した発症者便からも、コアグラーゼIV型の菌が優勢に検出されていた。

これらの菌同定は、簡易同定キットSP-18で、コアグラーゼ型別については、ブドウ球菌コアグラーゼ型別血清セット(デンカ生研)、エンテロトキシンは、RPLA法(A〜D型:デンカ生研)、PCR法(A〜E型:タカラバイオ)で行った。さらに食品残品(おにぎり・昆布)についてRPLA法を実施したところ、A型が検出された。

に示した9株について制限酵素Sma Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるDNA解析を実施した。電気泳動条件はパルスタイム 5.3〜34.9秒、電圧6V/cm、泳動時間19時間である。結果をに示す。原因菌と疑った4株(図中の1、2、7、8)のDNA切断パターンは一致し、これらの4株は同一である可能性が高く、おにぎりが原因食品と強く裏付けられた。

本事例に直接関与した訳ではないが、「おにぎりセット」の唐揚げと従業員の手指のふきとり検査からコアグラーゼIII型である別の黄色ブドウ球菌が検出されるなど、食品の保存管理も含めた衛生観念の低さが本事例の発生を見た要因になっていると思われる。

考察:黄色ブドウ球菌を分離するための性状のひとつにマンニット分解性があり、通常、このマンニット分解性が見られなければ黄色ブドウ球菌として分離しない可能性もある。今回は、純培養的に出現していることから食中毒の原因菌として疑われ、確認試験をしたところ、黄色ブドウ球菌と同定された例であった。また、当所で使用していたエッグヨーク培地では、卵黄反応がはっきりしていたが、卵黄加マンニット食塩培地ではマンニット分解性だけでなく、卵黄反応がごく弱くしか現れない場合もあり、検体が便などの場合当該菌が優勢に発育していなければ、分離できない可能性もある。分離培地にエッグヨーク培地を使用していたことも、分離できた要因ではあるが、細菌は生き物として柔軟に対応していくべきと思わされた事例として貴重な経験であった。

福島県衛生研究所会津支所 羽賀節子 菱沼郁美 伊藤岩夫
福島県衛生研究所 熊谷奈々子

新潟市衛生試験所 江口ヒサ子 田中毬子

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