細菌性赤痢の外来治療における問題点

(Vol.27 p 69-70:2006年3月号)

1)細菌性赤痢の現状

細菌性赤痢は国外感染例が70%余りを占める輸入感染症である。国内発生例では保育園、幼稚園、小学校など、小児関連施設での集団発生は毎年報告されており、食中毒型の事例も発生している。届出数は感染症法施行前の1998年までは年間1,000〜 1,700台であったが、法施行後は800台、2005年は500台に減少している。東京都および12政令指定都市立感染症指定医療機関における調査からみて、入院例は届出数の10%前後と推測される(図1)。入院期間も3日以内のことが多い。すなわち、細菌性赤痢は外来治療対象疾患となったのである。これは当然の結果であり、法施行により無症状者あるいは症状軽快者の外来治療が可能となったためである。従来、国内例では発病初期に入院する重症例が多く、国外例では症状が軽快した時期に発見されて入院する例が多かったが、法施行後の入院例は入院治療が必要と臨床的に判断された重症例に限定される傾向が強くなっている(表1)。

赤痢菌は以前から耐性菌が多く、現在の選択薬であるニューキノロン系薬やホスホマイシンの導入前には再排菌に悩まされた。しかし、最近ではこれらの薬剤にも耐性菌が出現している(図2)。もともと適切な抗菌薬療法を行っても再排菌がある上に、さらに、ニューキノロン低感受性菌あるいは耐性菌の出現という厄介な問題が出現している。ニューキノロン耐性菌は現在までまれであるが、ナリジクス酸耐性菌は高率にみられ、これらはニューキノロン低感受性と理解して治療に当る必要が生じている。

2)診療現場からみた問題

(1) 同定の遅れと関連する問題

IASRで問題提起されたように(IASR 24: 208, 208-209, 210, 210-211, 211-212, 212-213, 213-214, 2003)、疾患が減少したため検査室での同定に時間がかかり、一般医療機関では1週間近くかかることがまれでない。場合によってはこの間に感染が拡大する危険がある。リスクグループに対するアプローチが重要と思われる。検疫所では2日程度で同定されるので、海外渡航者にはできるだけ検疫を受けてもらうよう対策を講じること、国内でも集団発生が疑われる事例では、検査結果が出なくてもできるだけ早く保健所に相談するよう、診療現場に情報提供を行っておくこと、医師ばかりでなく検査技師に対する2類感染症研修実施などの体制整備を行う必要がある。次回の感染症法改正では、細菌性赤痢はコレラや腸チフス、パラチフスとともに3類感染症への類型化が提案されている。一般医療機関での治療が原則となるため、体制整備は急務と思われる。

(2) 抗菌薬治療に関する問題

わが国では細菌感染症の治療薬としてセフェム系薬が選択されることが多い。さらに、経口摂取がむずかしい感染性腸炎ではしばしばセフェム系薬が静脈内に投与され、かつ症状が改善されるまで禁食となる。このような状況で菌が検出され転院してきた場合、抗菌薬療法が行われていたにもかかわらず、転院時に菌が検出されることがまれでない。症状が改善していれば外来治療となるが、排菌が遷延すれば感染拡大が懸念される。2004年9月の感染症法施行規則改正でサーベイランスが強化された結果、解析に必要な分離菌の収集が可能になったことは朗報である。上記のように、赤痢菌は薬剤耐性菌が多いため、薬剤感受性に関する情報は治療上不可欠であり、その結果を診療現場に還元することが有用と思われる。

(3) 患者指導について

細菌性赤痢、ウイルス性胃腸炎など、感染性腸炎は接触感染する代表的疾患である。多忙な外来診療で時間をとるのはむずかしいが、最小限、手洗いの励行を説明しておく必要がある。

感染性腸炎研究会・
横浜市立市民病院感染症部 相楽裕子

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