CT保有のVibrio cholerae O141検出事例−大分県

(Vol.27 p 10-10:2006年1月号)

2004年7月27日、下痢を訴え来院した患者の便からVibrio cholerae が検出されたが、その届出の必要性について管轄保健所(現、県民保健福祉センター)へ医療機関の医師より問い合せがあった。管轄保健所からの検査センターへの聞き取りの結果、O1混合血清、O139抗血清ともに凝集が認められないとのことから、届出は必要なしと判断された。しかしながら、コレラ毒素(CT)産生のO1およびO139非凝集V. cholerae の報告もあることから、検査センターから菌株を分与してもらい精査することとした。

送付された菌株はTCBS寒天培地上に白糖分解の黄色コロニーを形成し、定法により行った生化学的性状テストでV. cholerae と同定され、CT単独PCRによりCT遺伝子保有が確認された。念のために実施したコレラ菌免疫血清(デンカ生研)による凝集検査でO1混合血清に弱く凝集が認められたため、再度、O1、O139、CTのMIX PCRにて確認検査を行った。その結果、CTのみ遺伝子の増幅が認められ、O1、O139には遺伝子の増幅が認められなかった(図1)。そこで、国立感染症研究所に菌株を送付した結果、O群血清型がO141、ヘモリジン活性保有エルトール型であることが判明した。

患者は75歳の男性で、2004年7月17日午後より水様下痢(10数回)を呈したため医療機関を受診し、検便を行った結果、当該菌が検出された。過去に胃の部分切除を行っており、海外渡航歴はなかった。患者は配偶者と二人暮らしで、配偶者は無症状であった。

2類感染症のコレラの届出要件は、血清型O1およびO139で、かつCT産生性である。本事例のように、CT遺伝子を保有し、かつ、市販のコレラ菌免疫血清に弱く凝集が認められた場合、2類感染症としての判断に苦慮する。2類感染症は検査結果に迅速さと正確さが要求されるので、紛らわしい凝集が認められた場合は、O1、O139、CTのMIX PCRで確認することが有用であると考える。

さらに、腸管出血性大腸菌が血清型いかんにかかわらず、VT産生性あるいはVT遺伝子保有で取り扱われるのと同様、2類感染症のコレラの届出要件もCT産生性あるいはCT遺伝子保有とすることが望ましい。そのためにもO1およびO139非凝集V. cholerae の積極的サーベイランスを行い、CT保有状況を明らかにすることが必要と考える。

大分県衛生環境研究センター
緒方喜久代 鷲見悦子 長谷川昭生 内山静夫
国立感染症研究所 荒川英二 渡辺治雄
久留米臨床検査センター 近藤正治 森田 繁 原 一美

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