The Topic of This Month Vol.26 No.12(No.310)

ノロウイルス感染集団発生 2003年9月〜2005年10月

(Vol.26 p 323-325)

ノロウイルス(Norovirus、以下NV)は2002年に国際ウイルス命名委員会で決定されたカリシウイルス科の属名の一つである。従来、小型球形ウイルス(SRSV)、ノーウォーク様ウイルスと呼称されていた。NVはRNAウイルスで、大きくgenogroup(G) IとIIに分けられ、少なくともGIは14、GIIは17以上の遺伝子型が存在する。NVは糞便および吐物中に大量に排出され、症状消失後も1週間程度糞便中への排出が続く。直接あるいは手指等を介して人→人感染を、食品が汚染されることにより食中毒を起こす。主症状は下痢、嘔吐、嘔気、腹痛で、通常1〜3日で回復するが、高齢者・乳幼児等で脱水症状が強い場合は補液等の対症療法を行う。また吐物誤嚥による窒息にも注意が必要である。

1.食中毒統計:2004年の食中毒統計によると、病因物質別食中毒事件数ではNVは277事件でカンピロバクターに次いで第2位、患者数では12,537名と全体の45%を占め、細菌性が減少した2001年以降、第1位となっている(IASR 24: 309-310, 2003およびhttp://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html参照)。

2.集団発生事例からのNV検出報告:食中毒統計とは別に、地方衛生研究所から国立感染症研究所・感染症情報センターには「集団発生病原体票」が報告されている。これには、病原体の人→人感染や感染経路不明の胃腸炎集団発生事例も含まれている。2004年12月〜2005年1月には人→人感染の疑われる事例が急増した(図1)。2003年9月〜2005年10月に、食中毒患者、胃腸炎患者または調理従事者などからウイルスが検出された事例は959で、うち934事例でPCRによってNVが検出された(GII 744事例、GI 76事例、GI+GII 73事例)(表1)。この他、7事例はサポウイルス(SV)、14事例はロタウイルスが単独で検出され、複数ウイルス検出事例も報告されている。NV GII検出事例は2003/04シーズンは例年より早く11月から増加がみられたが、2004/05シーズンは2004年12月〜2005年1月に大きく増加した後、5月にも再び増加がみられた(図2)。

集団発生の規模:患者数が報告された803事例の患者数を集計すると(図3)、人→人感染の疑われた事例では患者数17〜32人、食品媒介が疑われた事例では9〜16人が最も多かった。

感染/摂食場所:人→人感染が疑われた事例の推定感染場所は老人ホーム(介護施設を含む)、小学校、病院、保育所、福祉養護施設の順に多かった(表2)。老人ホームで発生した事例の3分の1では推定感染経路が不明であった。患者数の多かった事例を表3に示す。全事例で患者からGIIが検出されている。

原因食品:食品媒介が疑われた265事例中、推定原因食品が記載されていたのは74件(カキ30件、カキ以外の貝類6件など)であった。PCRで食品からもNVが検出された事例は16件(カキ6件、井戸水2件、しじみ醤油漬、まぐろ、サラダなど)と少なく、うちGIIが11件、GIが1件、GI+GIIが2件であった。原因食材からのNV検出法の開発が急務である。また、上記の他にも井戸水による事件が発生している(IASR 26: 150-151, 2005および本号8ページ参照)。

3.小児の感染性胃腸炎患者からのNV検出報告:小児の感染性胃腸炎患者からのNV検出は毎年年末から増加し、集団発生もこの時期に増加する。しかし、2004年と2005年には5月、6月にもNV検出報告が増加し、特に2005年は8月まで報告が続いた(表4、本号5ページ参照)。感染性胃腸炎の病原検索では、季節を問わずNVの可能性も念頭に置いた検査が必要である。

4.2004/05シーズンに流行した遺伝子型GII/4:欧米では2002年に検出されたNV GII/4のLordsdale/93/UK型のポリメラーゼ領域に変異が認められるウイルス(2002年型)、さらに2002年型が変異した2004年型による高齢者施設、学校等での集団発生が多発している。この2002年型および2004年型は同時期に日本にも存在していたことが確認されている(本号3ページ参照)。

2004/05シーズンにわが国の高齢者施設等で集団発生を起こしたNVの多くは欧米と同様にGII/4で、ポリメラーゼ領域の解析により2004年型と、それとは少し異なるSaitamaU1/97に類似のウイルスが主流であることがわかった(本号3ページ5ページ9ページ参照)。また、このGII/4はポリメラーゼ領域のみならず、キャプシド領域においても変異が認められている(本号3ページ5ページ9ページ参照)。

なお、以前はGIによる集団発生は少なかったが、2004/05シーズンには九州地区でGI/3型(本号7ページ参照)、愛媛県でGI/3(本号5ページ参照)による事例が報告され、今後の動向が注目される。

5.まとめ:国産カキおよび輸入魚介類からのNV検出率の増加と食中毒事件数の増加との間に関連性が認められており、検出されたNVの遺伝子型と患者から検出される遺伝子型との関連もみられている(本号13ページ15ページ参照)。魚介類の十分な加熱調理(85℃1分間)を心がける必要がある。

2004年12月〜2005年1月に高齢者介護施設におけるNV感染集団発生の報告が急増したため、厚生労働省は実態調査を実施し、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を作成した。また、「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について(2005年1月10日付老健局課長通知)」により、保健所への発生報告を求めている(本号10ページ参照)。

集団発生事例でNVが検出されない場合には、SV、ロタウイルスの検査が必要である(本号16ページ17ページ18ページ参照)。さらに、複数のウイルスによる集団発生も見られることから、これらのウイルスを同時に検索可能な電子顕微鏡の有用性が改めて強調されている(本号18ページ参照)。冬季のみならず、NV流行に備えるためには、特に地域での病原体サーベイランス情報に注意し、常日頃から健康観察、手洗いなどを励行することが重要である(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html参照)。

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