幼児水泳教室で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−札幌市

(Vol.26 p 345-345)

2005年7月29日、2つの医療機関から保健所に女児(4歳)および男児A(3歳)から腸管出血性大腸菌EHEC O157を分離し、VT1&VT2 (+)の届出があった。翌日(7月30日)、別の医療機関から保健所に男児B(4歳)からもEHEC O157を分離し、VT1&VT2 (+)の届出があった。

7月30日、患者および家族の健康調査により、3名の患者は札幌市内の同じスポーツ教室の水泳教室に参加していたことが判明した。そこで、同水泳教室について患者3名を除く全参加者72名(3〜4歳の幼児53名、指導員19名)の健康状態を調査した。

その結果から、有症者10名(幼児)の検便検査(衛研8名、医療機関2名)およびプール水2検体および足洗い場水1検体についてEHEC O157の細菌検査を実施した。その結果、幼児4名(衛研実施分)からEHEC O157が検出されたが、プール水等からは検出されなかった。また、陽性幼児の家族1名の糞便からEHEC O157が検出された。

検出された菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動のバンドパターンを調べた結果、8株とも同一パターンを示した。

8月26日、陽性者であった全員の検便の陰性が確認され、その後新たな発症者が見られないことからEHECO157集団感染の終息を確認した。

本事例における感染者数は幼児7名および幼児の家族1名、計8名であった(表1)。

水泳教室は週2回午前中1時間開催され、登録された幼児が参加していた。最終開催日は7月21日(木)であり、潜伏期を考慮し2週間前まで遡った開催日(計4回)に同一時間帯の教室に参加したのは53名であった。陽性者の発症時期は7月23〜26日であり、主な症状は最初の発生届出幼児2名が血便を伴い、他は下痢、腹痛、発熱等であった(表2)。

水泳教室で利用されたプールの循環ろ過装置や消毒設備に異常は無く、残留塩素濃度も適切に管理されていたこと、プール水の細菌検査も陰性であったこと、また、他のプール利用者から患者が発生していないことから、プール水が感染源ではないと判断した。さらに、喫食状況調査の結果、共通する飲食物が無いことから、食中毒ではなく水泳教室での幼児同士の接触等による集団感染と判断した。

従来、幼児のEHEC集団感染における簡易プールの使用は、塩素管理が徹底していないために感染リスク要因になると考えられていたが、本事例では、遊泳用プールにおいて塩素管理が徹底されていたのにもかかわらず集団感染が発生した。このことから、プール水の衛生管理のみならず、プールサイドにおける環境汚染や幼児相互の接触、幼児の健康管理および遊具の衛生管理等もEHECの感染リスク要因になる可能性があると考えられた。

札幌市衛生研究所
川合常明 廣地 敬 坂本裕美子 土屋英保 大川一美 藤田晃三

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る