散発性胃腸炎と胃腸炎集団発生からのノロウイルス検出状況−愛媛県

(Vol.26 p 327-329)

ノロウイルス(NV)は毎年、急性胃腸炎の地域流行や集団発生を起こしている。2005年1〜2月には、高齢者入所施設でNVによる集団発生が全国的に多発し、社会問題となった。我々は小児科医院外来の散発性胃腸炎患者を対象として、長期間継続的に胃腸炎起因ウイルスの検索を行っている。最近のNVの流行状況を把握するとともに、NVの地域流行と集団発生との関連性を明らかにするため、分子疫学的解析を行った。

ウイルス検索は、電子顕微鏡とPCRを併用し、NV検出はリアルタイムPCR1)を用い、サポウイルス(SV)検出には、岡田らのプライマーを用いてRT-PCR2)を行った。NV陽性例は、ダイレクトシークエンスでキャプシド領域の塩基配列を決定し、遺伝子型別を行った3)。一部の検体は、ポリメラーゼ領域についても遺伝子解析を行った。

2003年10月〜2005年9月の間に、小児科に受診した1,037名の感染性胃腸炎患者の448例(検出率43%)からウイルスが検出された。内訳は、NVが224例(22%)(GIが24例、GIIが200例)で最も多く、検出されたウイルスの50%を占めていた。次いでA群ロタウイルスが104例(10%)、SVが81例(8%)、その他アデノウイルス、アストロウイルス等が検出された。月別のウイルス検出数の推移を見ると、NVは、2003/04シーズンは、例年より流行の始まりが遅れ、1月がピークで、その後7月まで流行が続いた。2004/05シーズンは、例年と同様12月がピークで、5月まで検出された。最近は、非流行期である夏季にもしばしばNVが検出され注目された。A群ロタウイルスは、例年と同様、2〜4月に多く検出され、SVは11、12月と2〜7月に検出された(表1)。

調査期間中に報告されたウイルス性の集団発生は23事例(NVが22事例、SVが1事例)で、そのうちNVによる食中毒事件は6事件であった。NVはGIIが20事例、GIが1事件から検出され、残る1事件はカキ・ハマグリ等が原因食品と推定される食中毒で、GIとGIIの両方が検出された。また、2005年1〜3月の間に、高齢者入所施設を中心とした集団発生が13事例みられた。

遺伝子解析の結果、これらのNV散発例および集団発生例から、20種類(GIとGIIがそれぞれ10種類)の遺伝子型が確認され、多彩な遺伝子型のNVが愛媛県下で流行していたことが明らかとなった。散発例から検出された遺伝子型はGIIが10種類で、GII/4 (Lordsdale)、GII/2(Melksham)、GII/6(Miami)、GII/3(Mexico)が多かった。GIは7種類で、約60%がGI/3(DesertShield)であった。集団発生例では、GIIが6種類、GIが5種類であった。散発例からGII/4、GII/2、GII/6、GII/3、GII/12(SaitamaU1)、GII/1(Hawaii)およびGI/3遺伝子型株が多く検出された時期に、同じ遺伝子型による集団発生がしばしばみられた(表2)。双方から検出された同一遺伝子型株の塩基配列は99.6〜100%一致していた。このことから地域流行株と集団発生事例の原因ウイルスとの関連性が強く示唆された。

また、2005年1〜3月に多く検出されたGII/4は、キャプシド領域の塩基配列から2つのクラスターに分類された。これらの株についてポリメラーゼ領域の塩基配列をみると、SaitamaU1/97と高い相同性(約96%)を示す株とGII/4-2004年変異株の2つが認められ、この時期に高齢者入所施設等で多発した集団発生の主要原因がこれら2つの株であったと考えられた(本号3ページ参照)。しかし、GII/4変異株の感染力や病原性との関係は不明である。

 文 献
1) Kageyama T et al., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
2) Okada M et al., Arch Virol 147: 1445-1551, 2002
3)片山和彦, IDWR 6(11): 14-19, 2004

愛媛県立衛生環境研究所
山下育孝 豊嶋千俊 近藤玲子 大瀬戸光明 井上博雄
国立感染症研究所 愛木智香子 秋山美穂 西尾 治

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