保育園で発生した腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例−札幌市

(Vol.26 p 308-308)

2005年6月29日、医療機関から保健所に男児A(3歳)について腸管出血性大腸菌(EHEC)O26を分離し、VT1(+)の届出があり、患者および家族の健康調査から、患者は保育園に通園していることが判明し、保育園における有症者等の状況について調査および指導を開始した。

その翌週(7月5日)、同医療機関から先に届出された男児Aと同じ保育園に通う男児B(2歳)についてEHEC O26、VT1(+)の届出があったため、7月6日〜8日、同保育園について患者2名を除く全園児102名、全職員26名の検便、トイレ周辺およびビニールプール(大1、小4)等のふきとり液20検体、保存食17検体のEHEC O26細菌検査を実施した。その結果、園児15名からEHEC O26が検出されたが、職員の便、ふきとり液および食品からはいずれも検出されなかった。保育園では患者の発生状況および検便検査結果から、二次感染予防のため7月11日〜16日の間を自主休園とした。

翌々週(7月14日)、初回検便で陰性の園児および職員の検便(2回目)を実施した結果、新たに園児2名および職員1名からEHEC O26が検出された。その後、8月9日までにさらに園児2名および陽性の園児の家族3名からEHEC O26が検出された。

8月29日、陽性者であった全員の検便の陰性が確認され、また、その後新たな発症者が見られないことから、保育園におけるEHEC O26集団感染の終息を確認した。

本事例における感染者数は園児21名、職員1名および園児の家族3名、計25名であった(表1)。

保育園の園児の年齢構成は1〜6歳で、13〜24人のクラスが5クラスあり、1歳の1クラスと2〜6歳の4クラスで、2〜6歳の混合保育を主とし、1週間に2回年齢別の交流会を実施しており、陽性者は各クラスに3〜7人認められた(表2)。

本事例では、有症園児で症状回復後も菌が陰性化するまでに長期間(25日)を要した例があった。また、発症後1週間の検査で菌は検出されず10日以上経過してからEHEC O26が検出された園児や、初発患者の届出から約1カ月後に発症し、EHEC O26が検出された園児の例があった。

検出された菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動のバンドパターンを調べた結果、検査した11株中10株のバンドパターンは完全に一致しており、1株のみが1本多かったが、類似度は97%で同一由来と判断した。

細菌検査には、従来のセフィキシム・亜テルル酸カリウム加ラムノース・マッコンキー基礎寒天培地に1%セロビオースを添加することにより、EHEC O26の選択性をさらに高めた分離培地(セロビオース加 CT-RMAC)を用いた(IASR 23: 290-291, 2002参照)。また、modified Escherichia coli Broth(mEC)による42℃18時間増菌培養を併用した。

疫学調査および細菌検査の結果、感染源および伝播経路は特定することはできなかったが、食品などの単一曝露による感染の可能性は低く、人→人への感染の可能性が高いと考えられた。また、EHEC感染の危険因子として、幼児の衛生管理の困難さやプール遊びなどの要因が関わっていると考えられた。

過去、札幌市におけるEHEC感染症の集団発生状況は1999(平成11)年7月に1保育園でO26・VT2(+)、2002(平成14)年7月に2保育園でO26・VT1(+)(IASR 23: 290-291, 2002参照)であり、いずれも夏季に保育園においてEHEC O26の集団感染が発生していることから、園児の健康管理、園児・職員の手洗い等の衛生教育や夏季の簡易プールの衛生管理などの徹底が重要と考えられる。

札幌市衛生研究所
川合常明 廣地 敬 坂本裕美子 土屋英保 大川一美 藤田晃三

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