AH3型およびB型インフルエンザ混合感染事例からのウイルス分離−山口県

(Vol.26 p 297-298)

山口県における2004/05シーズンのインフルエンザの流行は、感染症発生動向調査の定点当たり患者数が、ピークの2005年第9週で70人を超える大きなものであった。一方、ウイルスの分離状況は、B型が53株、AH3型が23株分離され、シーズン前半はB型優勢、第7週からAH3型の分離が増加し、後半はAH3型優勢であった。なお、分離されたB型はすべて山形系統株であった。

このような流行状況の中、AH3型とB型の混合感染と思われる事例を2例経験し、このうちの1例について、プラーク法によるクローニングを試みた。

1例目の患者は9歳女児で、医療機関にて2005年2月21日(第8週)にインフルエンザと診断され(迅速キットでA型陽性、B型未実施)、検体が採取された。MDCK細胞接種後4日目で明瞭なCPEが観察され、感染研分与の抗血清を用いてHI試験を実施したところ、5種類のすべての抗血清に対して反応を示さなかった。これは、既に埼玉県で報告されている事例(IASR 26: 152-153, 2005)と同様であった。この事例については、RT-PCR法によりAH5型は否定され、AH3型とB型の混合感染と結論した。

2例目の患者は4歳女児で、2005年3月7日(第10週)に1例目と同一の医療機関にて迅速キットでA型、B型ともに陽性と診断され、検体が採取された。実験室内汚染を完全に排除するため、P3実験室で検体処理および細胞接種を実施した。MDCK細胞接種後5日目に明瞭なCPEが観察されたことから、培養上清を回収して初代培養液(MDCK1)とした。

初代培養液のHI試験を実施したところ、すべての抗血清で反応を示さなかった1例目とは異なり、A/New Caledonia/20/99(H1N1) 抗血清(ホモ価 320)、A/Moscow/13/98(H1N1)抗血清(同 640)およびA/Wyoming/03/2003(H3N2)抗血清(同 640)に対して<10、B/Johannesburg/5/99抗血清(同 1,280)に対して1,280、B/Brisbane/32/2002抗血清(同 320)に対して10のHI抗体価を示した。しかし、迅速キットでA型とB型の両方に陽性、RT-PCR法によりAH3型とB型で陽性を示したことから、この初代培養液には、主流行であるA/Wyoming/03/2003(H3N2)類似株とB/Johannesburg/5/99類似株が混在していることが示唆された。そこで、これらをA/Wyoming/03/2003(H3N2) 抗血清(抗W血清)およびB/Johannesburg/5/99 抗血清(抗J血清)で中和した後、プラーク法によりクローニングすることを試みた。

初代培養液の希釈列(10-1〜10-5)を同量の抗血清(10-1)で中和後、6 wellプレートのMDCK細胞に接種し、トリプシン添加した寒天培地を重層して培養したところ、4〜5日後に明瞭なプラークが形成されるwellが観察された。このうち、最も低濃度のwell(10-3+抗J血清、10-4+抗W血清)から数個ずつプラーク(MDCK2 )を回収し、それぞれを24 wellプレートのMDCK細胞に植え継ぎ増殖させた。この培養上清(MDCK3)について、さらにもう一度、同じ操作を繰り返して得られたプラーク(MDCK4)をそれぞれ増殖させた培養上清(MDCK5)をクローンウイルス液とし、HI試験に用いた。なお、クローニングの可否についてRT-PCR法で確認したところ、1回目の段階(MDCK3)でAH3型とB型が分離されていた。

クローニングされたAH3型のHI抗体価は、A/Wyoming/03/2003(H3N2)抗血清に対して640を示したが、他の4種類の抗血清にはいずれも<10であった。一方、B型のHI抗体価は、B/Johannesburg/5/99抗血清に対して2,560を示したが、他の4種類の抗血清にはいずれも<10であった。このことから、この2例目についても、AH3型とB型の混合感染であり、また、2004/05シーズンの主流行株によるものと結論した。

従来、インフルエンザウイルスの2種類の型(または亜型)の混合感染は稀な事例とされてきた。今回経験した2事例については、検体採取時期が流行のピーク週の前後であり、また、2種類のウイルスが同時に流行していることが確認されていた時期に該当する。さらに、2例目の事例については、医療機関での迅速キットでA型、B型ともに陽性であったが、ウイルス初代分離液でのHI試験結果のみからは、混合感染と判断することはできなかった。

厳密な意味での混合感染は、ペア血清を用いた抗体上昇で確認する必要があるが、流行の規模や複数型の同時流行などの条件が重なった場合、インフルエンザウイルスの異なる型(亜型)の混合感染例が少なからず有り得るということを念頭において、サーベイランス検査にあたる必要があると思われる。

山口県環境保健研究センター
戸田昌一 岡本玲子 西田知子 中尾利器 吉川正俊 宮村惠宣
鈴木小児科医院 鈴木英太郎

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る