欧州における男性同性愛者間の鼠径リンパ肉芽腫症の集団発生

(Vol.26 p 277-278)

欧州の広い範囲でChlamydia trachomatis 血清型L2による鼠径リンパ肉芽腫症(LGV)が流行し続けており、男性同性愛者(MSM)が感染しているが、その多くはHIV陽性である。発生は欧州の数カ国で報告されているが、最近では米国、カナダでも報告されている。LGVは、HIVや他の血液媒介性感染症の伝播をしやすくするため、公衆衛生上重要である。

欧州でのLGVの状況の概要(2005年3月):2005年3月までにオランダでは144例、フランスでは142例のLGV確定例が報告された。英国では、2004年10月から34例の確定例が報告されている。最近の集団発生はMSMの間だけで起こっている。持続的な直腸刺激症状を伴った重篤な肛門直腸感染が特徴で、患者の大部分はHIV陽性である。すべての症例で、不特定多数のパートナーとの無防備な肛門性交などの危険な行為が報告されている。

症例の認識:多くの医師や患者はLGVの認識が乏しく、直腸検体を対象とする検査や遺伝子型別を行う施設も非常に限られている。さらに、多くの国ではLGVは届出義務がなく、新規症例の報告はしばしば早期に行われてこなかった。「欧州性感染症サーベイランス早期警戒警報システム(ESSTI ALERT)」を介した届出により、オランダとフランスでは調査が始まった。2004年にオランダ、フランス、英国で積極的症例探査が実施されている。

LGVの微生物学的および臨床的問題:LGVの検査診断は理想的には、直腸検体でC. trachomatis 特異的DNAを検出し、nested PCRと制限酵素分析でLGV血清型を同定することであるが、C. trachomatis 核酸増幅検査(NAATs)は、直腸あるいは咽頭検体を対象としては認可されていない。迅速かつ高感度に検出するためには、血清型L2を同定するリアルタイムPCRが必要である。

LGV-2は不顕性感染を起こすことが分かってきており、MSMでの広いスクリーニングが必要となっている。しかし、必要なリアルタイムPCRは限られた施設でしか行うことができない。

株間の差異をみるために、omp1 遺伝子のシーケンス多様性が用いられる。アムステルダムの集団発生で検出されたのは、AMSTLGVL2b株として知られている1株であるが、それはフランスでも同定されている。ドイツ、英国でも複数の変異株が検出されている。シーケンス変異株を確定しておくことは、将来、特定の集団発生の範囲を決める上で必要なことである。

2005年4月にESSTIとオランダのRIVM主催で行われた会議にて、欧州におけるLGVの予防および制圧対策を向上させるため、以下のような指針が作成された。

 ・一般医の間での、STIに対する臨床的認識向上の必要性
 ・ESSTIのウエブサイトにおける最新の臨床情報や、調査、診断、患者管理のためのガイドラインの掲載の必要性
 ・分離株の国際間比較と、欧州微生物学者の間での情報共有の必要性
 ・欧州共通の症例定義と、標準的診断法についての国際的指針の必要性
 ・ESSTIによる、LGV確定診断が可能なレファレンスラボ一覧表の公表の必要性
 ・多国間共同での、インターネットによる症例の匿名報告(リアルタイム発生動向調査)の検討の必要性
 ・MSMにおけるLGV直腸炎の疫学的特徴、臨床症状に関する多施設研究の検討の必要性
 ・MSMにおける健康な性的活動のための介入の、継続的な必要性

欧州の国々ではLGVの流行状況が異なるため、以下のことがすすめられる。

 ・報告がほとんどなされていない国々では、MSMや臨床家に対するLGVの啓発が必要である。また、診断検査施設やリファレンスセンターを決めておく必要がある。
 ・報告の多い国々では積極的サーベイランスを実施し、感染危険因子や臨床症状の調査を行うべきである。また、記述調査や分析調査には国際的協力が必要である。

(Eurosurveillance Weekly 10, Issue 22, 2005)

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