E型肝炎ウイルスの集団感染事例−北海道

(Vol.26 p 266-267)

概要

2004年11月16日に北見保健所管内の医療機関から、E型肝炎患者1名の発生が同保健所に届けられた。保健所が患者周辺の疫学調査を行ったところ、患者は8月14日に家族、親族とともに会食していたことが判明した。このため、この会食による感染の可能性も含め、食中毒、感染症両面を念頭に調査を行ったところ、あらたに無症状のE型肝炎ウイルス感染者4名を確認した。

2004年9月21日、60代の男性が、下痢や発熱などの症状を呈して医療機関を受診し、検査・治療を受け、29日にE型肝炎と診断されたが、10月14日、急性劇症肝炎により死亡した。11月16日、北見保健所では感染症発生届を受理し、医療機関の担当医師から聞き取り調査を行うとともに、患者周辺の疫学調査を開始した。その結果、患者は8月14日に家族、親族とともに同保健所管内の飲食店で会食していたことが判明したため、当該飲食店における食品の取り扱い状況や、提供食品の遡り調査および利用者の喫食調査を行った。これにより患者および親族らが会食した8月14日の利用者は388名で、焼肉16品目、惣菜など51品目およびドリンク類6品目、計73品目がバイキング形式で提供されていたことが明らかとなった。また、本事例の調査中にE型肝炎患者発生の新聞報道があり、同じ飲食店で食事をした者から北見保健所に相談が寄せられた。これを受けて、当衛生研究所が、患者およびその親族(以下「患者関連グループ」という)14名と、相談者およびその親族(以下「相談者グループ」という)9名、飲食店従業員5名について、E型肝炎ウイルス遺伝子の検査を担当するとともに、抗体検査については国立感染症研究所に依頼することとなった。

当衛生研究所では、E型肝炎ウイルスの遺伝子検出を目的としたRT-PCRを、患者関連グループ14名の血清26検体と便12検体、相談者グループ9名の血清8検体と便8検体、飲食店の従業員5名の血清5検体、便2検体について行った。血清検体には、検査対象者の居住する地域の保健所が採取したものの他に、検査機関で保管されていたものが含まれる。RT-PCR法に用いたプライマーは、HEV-F1/HEV-R2およびHE044/HE040の2系統で、これらのプライマーでPCRを行った後、それぞれHEV-F2/HEV-R1、HE044/HE041プライマーを用いたnested PCRを行い、増幅産物を判定材料とした。その結果、患者関連グループ1名の血清からE型肝炎ウイルス遺伝子を検出し、遺伝子配列よりG4であることが明らかとなった。E型肝炎と診断・届出された患者からの血清は発症後3週以上経過したものであり、ウイルス遺伝子を検出することはできなかった(表1)。

国立感染症研究所による抗体検査の結果、IgM抗体陽性者が、患者関連グループに3名、相談者グループに1名確認された。なお、相談者は肝炎症状を呈していたが、IgM抗体は陰性であった。またIgG抗体陽性者は、患者関連グループに8名、相談者グループに4名、飲食店従業員に1名、IgM抗体陽性者と重複して存在し、感染時期は特定できないものの、過去の感染をうかがわせた(表1)。

RT-PCRと抗体検査の結果から、ウイルス遺伝子が検出されるか、IgM抗体の上昇が見られた場合を、今回の事例におけるE型肝炎ウイルス感染者と判断し、患者以外に患者関連グループに3名、相談者グループに1名の感染者(いずれも無症状)を確認した。しかしながら喫食調査では、患者および感染者全員が共通して食べた食品を特定することはできなかった。また、飲食店には当日提供していた食品の残品がなく、検査による原因食品の確認もできなかった。なお、当飲食店でも提供され、過去の文献などでE型肝炎感染原因食品としての疑いが示されている豚レバーについて、卸業者から30検体を収去し、衛生研究所においてRT-PCR、さらにHECOM-S/HECOM-ASプライマー、TP-HECOMプローブを用いたリアルタイムPCRも行ったが、すべて陰性であった。

今回の事例では、共通の飲食店で喫食した2グループから感染者が判明し、E型肝炎ウイルスに汚染した食品からの曝露の可能性が示唆された。しかしながら、食品の残品が保存されておらず検査ができなかったこと、患者および感染者全員が共通して食べた食品がないこと、E型肝炎の潜伏期間が平均6週間と長いことなどから、当該飲食店以外における感染も否定できず、感染源および感染経路の特定にはいたらなかった。

E型肝炎は、潜伏期間が長いこと、感染しても発症しない場合が多いこと、ウイルス遺伝子を検出できる期間が限られていることなどから、行政としての迅速な探知や、感染源・感染経路の特定は困難な場合があり、集団感染としての判断が難しい。今後の課題として綿密な疫学調査の実施と、感染初期におけるより感度の良い診断システムの確立が重要と思われる。

北海道立衛生研究所感染症センター微生物部
石田勢津子 吉澄志磨 三好正浩 奥井登代 岡野素彦 米川雅一
北海道北見保健所 石田 明(現北海道苫小牧保健所) 阿部昇二 大塚 寛

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