夏季に発生したAH3型インフルエンザウイルスの施設内流行−奈良県

(Vol.26 p 244-245)

インフルエンザ非流行期の7月〜8月にかけて、AH3型インフルエンザの施設内流行が発生したので経過および検査結果概要を報告する。

発生は奈良県北部の病院(重症心身障害者病棟)内で、2005年7月15日に入院中の男性患者(43歳、発熱38.8℃、倦怠感)から始まった。その後、31日に1名が発症、8月3日〜10日にかけては職員を含む流行拡大が観察され、最終的に罹患者は入院患者28名、職員10名の総計38名に達した()。病院側は、臨床症状(発熱:37.3〜40.0℃、食欲不振、咳および鼻汁)からインフルエンザを強く疑い、流行拡大期の患者から迅速診断を行い、A型インフルエンザの流行と判断した。届出を受けた保健所は、疫学調査を開始し、非流行期であるためより詳細なウイルス検索(トリインフルエンザを含む)が必要との判断から、当研究センターに咽頭ぬぐい液6検体の検査を依頼した。

当センターでは遺伝子学的および血清学的検査を実施した。遺伝子検索は清水ら1)のプライマーを用いたRT-PCR法により解析を行い、すべての検体からAH3型インフルエンザウイルス遺伝子を検出した。得られたDNA断片からは配列をダイレクトシーケンス法で判読し、本ウイルスの遺伝子配列がA/Jiangsu(江蘇)/76/2004(H3N2)株(Accession No. AY854049)と最も高い相同性(約98%)を有することが判明した。なお、トリインフルエンザウイルス(H5N1)の検査結果は全例陰性であった。一方、MDCK細胞への接種でも全例CPEが観察され、国立感染症研究所から配布された3種の抗血清A/Wyoming/03/2003、A/Kumamoto(熊本)/102/2002およびA/Panama/2007/99に対するHI価を測定した。結果は、各々640(ホモ価 1,280)、640(同 1,280)および20(同 320)であった。

以上のことから、今回の流行の原因ウイルスは、遺伝子学的および血清学的に2004/05シーズンに本県で流行した株と類似していたことが確認された。なお、8月11日以降、新たな患者発生は見られず、15日をもって保健所は調査を終了した。

 文 献
1)清水英明, 渡辺寿美, 今井光信, 感染症学雑誌 71(6): 522-526, 1997

奈良県保健環境研究センター 井上ゆみ子 北堀吉映 中野 守 米澤 靖
奈良県郡山保健所 石塚理香 北神 淳

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