輸入エキゾチックペットによる動物由来感染症

(Vol.26 p 202-203)

近年のペットブームの影響で、いわゆる「エキゾチックペット」と呼ばれる動物を飼う人が増えている。「エキゾチックペット」とは齧歯目(各種ネズミ、リス、プレーリードッグなど)や霊長目、コウモリ、爬虫類、両生類などで、一部、繁殖されたものもあるが輸入された野生動物も多い。これらはつきあいの歴史も浅く生態に不明な点も多いため、管理も難しく、さらに表1に示した動物由来感染症の感染源となるだけでなく、未知もしくは稀で重篤な感染症を持つ危険がある1)。財務省貿易統計による動物輸入状況を見ると(表2)、哺乳類(特に齧歯目)、鳥類の輸入数量はここ数年減少傾向にあるものの、依然として多くの動物が輸入されている。特に、ハムスターやリス、フェレット、爬虫類、鳥類の輸入が多い。ただ、財務省貿易統計では20万円以下の少額貨物は計上されていないため、実際はさらに多くの輸入があったと思われる。また、表は示さないが主に「エキゾチックペット」のエサとして、齧歯目の死体も多く輸入されている。これらも動物由来感染症の感染源になりうる。

エキゾチックペットが関与すると思われる動物由来感染症の国内事例を見てみると、オウム病では1999〜2004年に18〜54例の患者がでたが、その大半でインコなど鳥類が感染源として報告されている。また、Q熱でも1999〜2004年の患者7〜47例のうち約40%前後で動物の関与が報告され、ペット用のハムスター、モルモット、フェレットなどが感染源として含まれている。また、2005年に輸入齧歯目によるレプトスピラ感染患者が発生した。しかし、その他の疾患ではほとんど感染源としての動物は特定されておらず、感染症におけるエキゾチックペットの関与の詳細は不明である。

ただ、たとえば齧歯目は、ペスト、野兎病、レプトスピラ症、ハンタウイルス肺症候群などの感染源となることが知られ、世界中で齧歯目由来感染症として多くの患者が報告されている。齧歯目のうちハムスターなどごく一部を除くとその大半は、野生動物であるうえ、上記感染症の発生国から輸入されエキゾチックペットとして飼育されている2)。ゆえに現在国内にはない感染症を持ち込むと言う点で非常に危険性が高い。事実、2003年3月に輸入禁止となったが、プレーリードッグでは、1998年にアメリカで捕獲され、日本へもペットとして輸出準備中にペストが発生し大量死した事例や、2002年夏にアメリカ・テキサス州のペット業者でプレーリードッグが野兎病に感染していることが確認され、すでに日本に輸出していたことが判明した事例があった3)。また、2003年6月には、アメリカで輸入アフリカオニネズミからペット用プレーリードッグを介して70名以上のサル痘患者を出した。ウイルスは、一部の同時に輸入されたキリス、アフリカヤマネからも検出され、アフリカヤマネの一部は日本に輸出されていた4)。いずれも幸い日本へのウイルスの持ち込みはなかった。身近で輸入量も非常に多く、大半が繁殖ものと考えられるハムスターでも、アメリカで2004年2月、3歳男児がハムスターの咬傷により野兎病と診断され5)、カナダ・マニトバ州で2004年10月に動物卸売業者が販売したハムスターから野兎病菌が検出されるという事例があった。さらに2002年に南米のボリビアでは、飼い主を咬んだペルー産ハムスターが狂犬病に感染していて、約80人が緊急でワクチン接種を受けるという事件もあった。国内に輸入している齧歯目からレプトスピラやサルモネラが検出されることもあり6)、野生齧歯目をペットとして取り扱うことは非常に危険であると言わざるを得ない。

鳥類は、先に述べたオウム病だけではなく、すでに国内でも患者発生を見るが、クリプトコッカス症、Q熱、サルモネラ症などの感染源としても重要である。

哺乳類や鳥類よりも多く輸入されている爬虫類や、両生類も、種類は多くはないが動物由来感染症の感染源となる。代表的なものはサルモネラ症で、特に抵抗力のない乳幼児が感染・発症する例が多いようである。国内の爬虫類を調査したところ、ペット用のヘビ、トカゲなどでは90%前後でその消化管からサルモネラが検出された。

エキゾチックペットを含む輸入動物からの感染症を防ぐために、2005年9月1日より動物の輸入届出制度が導入される。齧歯目に関していえば、生体、死体ともに、過去12カ月間、ペスト、サル痘、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、野兎病、レプトスピラ症が発生していない施設で、出生以来保管され(すなわち施設で繁殖したものであり、野生ではなく)、感染症に関する安全性について輸出国政府による衛生証明書の添付されたものしか輸入が許可されないことになる。鳥類やウサギ目に関しても届出制度が適用される。輸入動物による動物由来感染症の持込みの危険性が大きく減少することが期待されるが、この届出制度が適切に運用されるかどうかが、その期待が現実となるか否かの大きなポイントとなる。

文 献
1)今岡浩一, 他, Infection and Technology 11: 2-13, 2003
2)平成14年度厚生労働科学研究費「動物由来感染症予防体制の強化に関する研究」研究班報告書, 2003
3) Emerg Inf Dis 10(3): 483-486, 2004
4) MMWR 52(27): 642-646, 2003
5) MMWR 53(51&52): 1202-1203, 2005
6)平成16年度厚生労働科学研究費「輸入動物に由来する新興感染症侵入防止対策に関する研究」研究班報告書, 2005

国立感染症研究所・獣医科学部 今岡浩一

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