保育園におけるGI、GIIノロウイルス混合感染事例−堺市

(Vol.26 p 179-180)

ノロウイルス(NV)には多様な遺伝子型の存在が知られている。2004年11月〜2005年4月にかけて、堺市で発生した5事例は、すべてが集団感染事例で、genogroup II(GII)、遺伝子型は4型(GII. 4)であった。この成績から、2004/05シーズンにおけるNV流行の主流株と推測されていた。これは大阪府内を含め、全国的にみても同様な状況であった。しかし、2005年5月に保育園で発生したNV集団感染事例から、genogroup I(GI)とGII遺伝子が検出された。2002年3月よりNVの検出を開始して以来、当所では初めてのGI、GII混合集団感染事例となった。その概要と問題点について述べる。

5月20日(金)、市東部に位置する私立保育園から保健所医療対策課に4、5歳クラスの園児で、嘔吐、下痢の症状を呈するものが複数いるとの連絡が入った。同クラスの15名も嘔吐、下痢症状で休んでいた。21日には他のクラスにも発症者が拡大し、その後の調査により集団感染症と断定された。この保育園は0〜5歳の園児212名が在園し、職員は38名で構成されていた。発症者の内訳を示す(図1)。発症者は園児で66名(発症率31%)、職員で5名(同13%)であった。

20日に搬入された園児1名の糞便のNV検査から、GIが検出された。23日には、園児1名と保育師1名から同様にGIが検出された。GIノロウイルスによる集団感染事例として対応していたが、5月30日、31日に園児計7名の検便を追加実施し、1名からGI、3名からGIIが検出された。GI陽性の4株すべてについて、キャプシッド領域の塩基配列を解析した結果、100%の相同性があった。系統樹解析による遺伝子型別では、GI. 4(AB042808Chiba4078JP)であった。GII陽性3株について、同様に解析したところ、すべてが100%の相同性を有し、GII. 6(AB039776SaitamaU397JP)であった。

新規発症者数の推移を示すと、19日、22日にピークを有する2峰性の発生パターンであった(図2)。5月16日に下痢症状を呈した園児が2名認められるが、残念ながら便材料は得られておらず、この事例の発端者であるか否かは不明である。今回の発生事例では前半の検体からGIが、後半の検体からGIIが検出された。GIとGIIノロウイルスによる感染が同時に発生していたのか、あるいは時間差を以って発生したのか判別できなかった。感染症事例において、その原因究明には初期検体が極めて重要であることは論を待たない。しかも、同一病原体によるものであるか否かの判定には、できるだけ多数の初期検体が必要である。検体収集がスムースに行われていたなら、上に述べた疑問点は解決できるものと考える。

GIノロウイルスの集団感染事例はそれほど多くない。しかし、園児における集団感染ではGI、GIIノロウイルスの混合感染例の報告はもっと少ない。大阪府内では、5月に入り小学校や保育園等での集団感染事例が多発しているが、今回の事例は今までの流行株と異なったGI. 4、GII. 6である。これまでと異なった遺伝子型での混合感染が生じた理由は色々考えられる。一つには、色々な遺伝子型のNVの侵淫度が高くなった可能性であるし、二点目はNVの流行株が変化し始めたことによることであろう。

NV流行予測は難しいが、継続した流行株の遺伝子型の集積や解析により、新しい遺伝子型の出現や、それによる症状の軽重などへの対応が可能と考える。

堺市衛生研究所 内野清子 三好龍也 松尾光子 池田芳春 吉田永祥 田中智之
堺市保健所   寺中陽子 杉本光伸 佐々木吉信 柴田仙子 藤井史敏

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