クリプトスポリジウム症患者における臨床症状とオーシスト排出の推移

(Vol.26 p 170-171)

2004年(平成16)年8月下旬、長野県内の宿泊施設においてクリプトスポリジウム症の集団感染が発生し、埼玉県内の2グループが下痢等の消化器症状を呈した。 この事例においてCryptosporidium parvum のヒト型(C. hominis )が検出された埼玉県内の1グループの患者群を対象として、臨床症状、糞便中オーシストの排出数の推移、および陰性が確認されるまでの期間について検討したので報告する。

材料および方法

クリプトスポリジウム陽性の患者群には保健所を介して、陰性確認をするまでの期間、任意で糞便を提出することを依頼した。協力が得られた有症者20名については、各1〜6回にわたり糞便検査を実施した。

検査方法は定法により濃縮し、直接蛍光抗体法およびDAPI染色を行い、微分干渉装置によって観察し、同定した。また、オーシスト数の算定方法は、まず、PBSと患者便をそれぞれ秤量し、適度に希釈して、直接蛍光抗体法を行った。それを微分干渉装置により形態を確認しながらオーシスト数を記録し、糞便1g当たりの個数を算定した。

患者の臨床症状は、保健所で聞き取りを行った調査票を集計し解析した。

結果および考察

1)潜伏期間:糞便検査が陽性であった18歳〜23歳の大学生18名の調査票を解析した結果、潜伏期間は感染日が特定できないことから、2〜8日間と推定された。

2)臨床症状:下痢回数は10〜40回(平均19.3回)、発症から9日、10日目に検査した4例のうち、2例は有形便であったのに対し、他の2例はいずれも水様便であったが、その1週間後には有形便となった。また、11日、12日目に検査した9検体のうち、5検体では軟便で、有形便は4検体であった。発熱はすべての患者で認められ、平均は38.4℃であった。嘔吐39%、吐き気78%、腹痛89%および頭痛は83%にみられた。

3)オーシストの排出期間:発症日の翌日を1日目として、60日目までオーシスト陽性を確認できたのは2例、59日目1例、58日目2例、57日目1例であった(表1)。

4)患者便におけるオーシスト数:発症から5日目に検査した3例ではそれぞれ約 1.1×105、 1.2×107、 1.7×107個/gであり、6日目に検査した2例では 3.2〜 3.6×106個/gであった。また、12日目に検査した6例では1.6×106〜1.4×107(平均 6.6×106)個/gであり、発症から5〜12日間は、106個/g台のオーシストが持続して検出された。その後は暫減する傾向が見られ、17、18日目には105個/g台、25日目に4×104個/g、31日目には6×103個/g検出された。

これらの結果から、クリプトスポリジウム症に罹患すると、緩解しても長期間にわたり多数のオーシストを排出し続けることが明らかとなった。

本原虫のオーシストは、塩素剤など各種消毒剤に強い抵抗性があることから、スイミング・プールにおける集団感染例が多数報告されている。米国CDC のMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)をはじめ、英国1)やオーストラリア2)でも複数の集団感染事例が報告されている。またオランダでは、5カ所の屋内プールにおけるフィルターの逆洗浄水について調査した結果、 153サンプルのうちCryptosporidium spp.は7検体(4.6%)、Giardia spp.は9検体(5.9%)で検出され、両原虫が検出されたのは2検体(1.3%)であった。また、プール水からも両原虫が検出されている3)。

以上、オーシストの排出期間と海外の事例から、緩解後であっても、しばらくの間はプール使用の制限が必要と考えられ、日本国内でも対応策が重要と考えられた。

今回の長野事件においては、下痢症患者の病原体を速やかに究明することができた。通常、病院等の検査室で実施している直接薄層塗抹法やホルマリン・エーテル法等の糞便の検査方法では、Cryptosporidium spp.のオーシストを同定することは困難である。しかし、千葉市立病院の臨床検査技師が鏡検時に本原虫を疑い、千葉市環境保健研究所で同定がなされていた。この情報が寄せられたことにより、当所では検査方法を選択し、迅速に対応することが可能となり、感染の拡大防止を図ることができた。

謝辞:情報や検体収集等に関しては、県感染症対策室、生活衛生課および保健所等の関係者のご協力をいただきました。深く感謝を申し上げます。

 文 献
1) McLauchlin J, et al., J Clin Microbiol 38: 3984-3990, 2000
2) Puech MC, et al., Epidemiol Infect 126: 389-396, 2001
3) Schets FM, et al., J Water Health 2: 191-200, 2004

埼玉県衛生研究所
山本徳栄 森田久男 森永安司 川名孝雄 砂押克彦 山口正則 丹野瑳喜子

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