プールを介したクリプトスポリジウム症の二次感染集団事例−千葉県

(Vol.26 p 169-170)

クリプトスポリジウム症はクリプトスポリジウム属原虫(Cryptosporidium spp.)のオーシストを経口摂取することによって起こる腸管感染症で、その潜伏期は2〜10日で水様性下痢を主症状とする。感染源は牛などの家畜や人で、感染経路は飲料水が多く、噴水、プール等の事例も散見される。わが国ではこれまでプールを介した事例報告はなかったが、プールを介した集団事例の感染者からさらに別のプールを介して二次感染したと考えられる集団事例を経験した。

経 過

2004年(平成16)年8月31日、東京Sスポーツクラブ(以下Sクラブ)より、長野県H保健所に「8月20日〜24日にかけて長野県Tホテルを利用した同クラブの多数の学童が26日〜27日にかけて下痢などの消化器症状を呈している」という連絡があった。長野県の調査により、この期間にTホテルを利用したのは12グループ 592名で、Sクラブを含む4グループに有症状者がみられ、これらはクリプトスポリジウム症の集団発生で、Sクラブの感染はプールを介したものと判明した(本号3ページ参照)。

Sクラブは千葉県内に20クラブを有し、その10クラブが長野県Tホテルのプールを利用した合宿に参加していた。参加した273名中 222例(85%)が下痢などの消化器症状を呈し、発症のピークは8月27日で、発症者45例の便検査で45例(100%)にクリプトスポリジウムが検出された。Sクラブがこれらの発症者が合宿終了後に使用していた千葉県内10カ所のプール水についてクリプトスポリジウムの自主検査を行ったところ、2カ所が陽性であった。また、9月5日に千葉県CプールでSクラブ学童も参加して水泳競技会が行われたが、そのプール水からのクリプトスポリジウム検出はなかった。

これらの結果を受けて千葉県は、報道発表でクリプトスポリジウム症への注意を喚起し、Sクラブにはクリプトスポリジウムの検出された2つのプールの使用休止および洗浄を、また、Sクラブの発症者家族には有消化器症状時の医療機関受診を勧告した。Sクラブは当該プールを9月8日に使用中止とし洗浄を行った。これら2つのプールを管轄するN保健所およびK保健所では、「長野での合宿に参加せず、8月25日〜9月8日までこれら2つのプールを利用し、8月25日以降下痢、腹痛、発熱を呈したもの」についての調査を行った。N保健所の調査対象者は 1,819人で有症状者は41人(有症率 2.2%)、K保健所の調査対象者は 1,004人で有症状者は7人(有症率 0.6%)で、N保健所の有症者4名中1名(発症日9月10日)、K保健所の有症者2名中1名(発症日9月9日)の便からクリプトスポリジウムが検出された(図1表1)。

考 察

本事例では、(1)長野での一次感染者が8月25日〜9月8日まで使用した千葉県内Sクラブプール2カ所からクリプトスポリジウムが検出されたこと、(2)同プールを8月25日以降に利用し、長野の合宿に参加しなかった者に9月の第1〜2週に下痢など有症状者の集積がみられ、その6名中2名からクリプトスポリジウムが検出されたこと、また、クリプトスポリジウム症に関する従来の報告では(3)潜伏期は2〜10日(平均7日)であること、(4)患者はその症状が消失した後もオーシストを2〜4週間は便に排出しうること、(5)オーシストは通常のプール消毒塩素濃度には強い抵抗性を示すことなどから、クリプトスポリジウムが検出された2名を含む有症者の集積はプールを介した二次感染者であると結論した。

本事例では、一次感染者は症状消失後にプールを使用していたが、その数が多く競泳練習のため利用時間が長くプールの汚染に至ったと考えられる。米国のRed Bookでは、クリプトスポリジウム症患者は症状消失後もプールを介した感染源となりうるため、プールの使用を症状消失後2週間は禁止することを推奨しており1)、このことはクリプトスポリジウム症の感染拡大対策で重要と思われた。

 文 献
1) RED-BOOK 2003, Report of the Committee on Infectious Diseases 26th edition. American Academy of Pediatrics, p.255-257, 2003

千葉県衛生研究所
一戸貞人 福嶋得忍 三瓶憲一 小倉 誠 斎加志津子 岸田一則
習志野健康福祉センター 神谷康裕 江沢健一
柏健康福祉センター 笹山 実
市川健康福祉センター 大塚 隆
船橋市保健所 今関久和

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