長野県におけるクリプトスポリジウム症集団感染の一事例

(Vol.26 p 167-168)

長野県北信保健所管内のプール、体育館等の運動施設を持つ宿泊施設の利用客288名が下痢等の消化器症状を呈し、複数の発症者便からクリプトスポリジウムが検出された。調査の結果、施設利用以前に感染していた発症者の糞便に汚染されたプール水および同じく糞便に汚染されたと思われる手洗い場で作製した共同容器の飲料水による集団感染と考えられた事例を報告する。

経 過

2004(平成16)年8月31日に「8月20日〜24日の間、宿泊施設で水泳合宿をしたAスポーツで下痢等の患者が多数発生した。」との情報を探知し、直ちに(1)利用者の健康状態、喫食状況および行動調査、(2)施設従事者の健康状態および喫食状況、(3)調理施設、給水施設、客室および共同浴場調査、(4)微生物学的検査、に入った。9月2日、千葉市およびさいたま市の発症者便からクリプトスポリジウムのオーシストが検出され、水系を中心にクリプトスポリジウムの検査を実施した。なお、9月7日〜8日にかけて厚生労働省水道水質管理室を中心とした調査団が来県し合同調査を行った。

調査結果

1.発症状況:同時期に宿泊施設を利用したのは12グループ(A〜L)592名で、調査できた578名のうちAスポーツ222名(調査済数261名)、C大25名(36)、D大32名(39)およびE高9名(20)の4グループのみに計288名の発症者があった。8月18日〜23日まで1名〜4名の発症が続いた後、24日〜29日までに発症者の87%が集中し、発症曲線は全体では27日をピークとする一峰性を示した()。D大だけは二峰性で、他のグループと違う傾向を示した。

主な症状は、下痢(96%)、発熱(79%)、腹痛(73%)であった。下痢はほとんどが水様性で、一日あたり1回〜10数回みられた。なお本事例は多県にまたがりそれぞれで調査が行われたことから有症状者を発症者と定義した。

2.喫食状況、食品や施設・設備、調理従事者の調査・検査結果から、食品を介した食中毒は否定的であった。

3.水道施設は、飲用の自家用井戸Iとプール用の自家用井戸IIで、プール水は加温、次亜塩素酸Naで滅菌、凝集沈殿、砂ろ過が行われていた。いずれも深井戸で設備構造に問題はなく、病原微生物の混入原因となるような状況はなかった。

4.グループ別行動状況
宿泊施設内の行動:部屋割り、食事場所、浴場、便所の使用等に問題はなかった。

運動施設の使用状況:プールは25×33×1.3mで、Aスポーツが8月20日午後〜24日午前まで使用し、その後、排水、清掃されていた。構造に問題は見られず、プール水の残留塩素の検査結果記録は基準を満たしていた。他のグループの使用はなかった。体育館は、B大、C大、D大、E高、F高、K大、L中が使用していた。

練習時の給水:プール、体育館を使用したグループのうち、B大、L中は市販のスポーツドリンクを、他のグループは体育館手洗い場の給水栓等から水道水を飲んでいた。C大、D大、E高、F高、K大は大型の容器に麦茶、スポーツドリンク等を自分たちで作っていたが、作製にあたりF高を除く4グループは容器に直接手を入れていた。なお、体育館の手洗い場は便所出入り口前にあり、便所の手洗い流しを兼ねていた。

練習中の用便:各グループとも主に体育館の便所を使用していた。8月21日、Aスポーツの1名が体育館便所前で下痢便を失禁した。清掃の際、手洗い場の流しを使用していた。

5.クリプトスポリジウム検査:発症者86名のうち、施設利用前の8月18日に発症したAスポーツの児童1名を含む4グループ74名の糞便からオーシストが検出され、E高由来の5株はCryptosporidium parvum ヒト型であった。調理従事者便、井戸I・II原水、末端水、氷からは、検出されなかった。プールろ過装置内の砂、糞便汚染部位の床材、清掃に使用したタオルからオーシストが検出され、床材から分離されたクリプトスポリジウムはC. parvum ヒト型であった。

考 察

発症者は12グループのうち4グループのみに45%〜85%と高率にみられた。発症グループはいずれもプールまたは体育館を利用しており、これら運動施設の利用中に曝露された可能性が高かった。発症曲線、滞在期間、潜伏期間からみて8月20日〜24日までに集中的に曝露した可能性が高かった。なお、D大女子に8月23日以前の発症者が複数あったが、検査を行った有症者3名からクリプトスポリジウムは検出されず他の原因が考えられた。

ろ過装置内の砂からクリプトスポリジウムが検出され、プール水が汚染されていたことが示された。また、糞便汚染部位の床材および清掃用タオルからクリプトスポリジウムが検出され、Aスポーツの1名が8月21日には発症しており、潜伏期間からみて施設を訪れる前に感染していた可能性が高いこと、8月18日に発症したAスポーツの児童からもオーシストが検出されたことから、複数の感染児がプールを使用していたと考えられた。糞便によりプール水が汚染され、感染が拡大した可能性は否定できない。

また、下痢便を清掃した際に手洗い場の流しを使用し、C大、D大、E高はここで容器に飲料を作製し練習中に共同で飲用していたことから、汚染された飲料により感染した可能性は否定できない。体育館利用者から検出したクリプトスポリジウムと糞便汚染場所のクリプトスポリジウムの遺伝子型は一致していた。

今回の事例では千葉県、埼玉県、厚生労働省の担当者の皆様方に調査および検査において多大な御協力を頂いた。また国立保健医療科学院の国包章一先生には調査について、国立感染症研究所の遠藤卓郎先生と神奈川県衛生研究所の黒木俊郎先生にはクリプトスポリジウムの検出と調査において多大な御協力を頂いた。ここに皆様に深甚なる謝意を表します。

長野県北信保健所
鳥海 宏 高木正明 坂本 淳 小野辰哉 細江昭史 長岡彦光 土谷浩一郎
近藤義明 塩澤憲一 川又秀一

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