新型のヒトトリパノソーマ症(Trypanosoma evansi による世界最初のヒト症例)−インド

(Vol.26 p 124-125)

2004年10月26日、インドのマハラシュトラ州Chandrapur地区で家畜との接触がある40歳の農民が、ナグプルの国立医科大学(GMC)に入院した。この患者は生まれた土地を離れたことがなかったが、2004年9月以降、感覚障害を伴う発熱を生じた。GMC微生物部は、この患者の血液塗抹染色標本でトリパノソーマ原虫を確認した。入院第2日には原虫は消失したが、第10日に発熱とともに再び出現した。インドではヒトのトリパノソーマ症は知られてないので、マハラシュトラ州健康当局はWHOに協力を求めた。同年12月にフランスから専門家が現地に派遣され、病原体はTrypanosoma evansi と同定された。患者は2005年1月まで、トリパノソーマ血症を伴った7〜10日間隔での発熱ピークが続き、緊急に治療することが求められた。

T. evansi は動物に疾患を生じ、通常は家畜で検出される。ヒトにおける動物トリパノソーマ原虫のキャリアは、20世紀に数例、インド、マレーシア、スリランカから報告されているが、科学的に確認されたものでなく、しかも常に一過性であり、ラットの寄生虫であるT. lewisi 感染が示唆されている。Chandrapurにおける本症例は、T. evansi に起因する世界初のヒトトリパノソーマ症であり、ステージIとして分類された。後天性免疫不全症候群の可能性は否定された。

2005年1月12日にスラミン(Germanin)1gの静脈注射が開始され、週1回、2時間かけてのスラミン点滴静注(20mg/kg)が5週間行われた。2月初めの寄生虫学的検査結果は陰性であった。治療後、患者の一般状態は劇的に改善し、治癒したと推測される。

2005年1月にカルカッタで、ヒトへのトリパノソーマ感染が疑われる他の患者1例が見つけられたが、その患者は急速な経過で死亡している。その地方で検査が行われたが、T. evansi 感染で死亡したとする他の証拠は見つかっていない。

T. evansi は、サシバエやアブのような多数の吸血昆虫による刺咬などで伝播する。Chandrapurの患者は牛との接触があり、人指し指に小さな傷があった。仮説として、感染動物の血液と直接接触したことによる感染が浮上したが、さらなる調査が必要であろう。当面は、この原虫がヒトに疾患を生じた理由、他の人々がT. evansi 感染を受けているかどうかを調べることである。マハラシュトラ州の健康局責任者はWHOからの技術的支援を受けた上で、患者と同地域に住む人々における感染の有無を調べる研究を計画している。

(WHO, WER, 80, No.7, 62-63, 2005)

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